頭痛診療を専門にしてます広島のクリニック院長です。
気持ちよさそうにお昼寝。午後1時から3時の30分以内のお昼寝は健康によいといわれております。この猫のように。。。。。。。。。
もくじ
本日はナルコレプシーについて。
日中の眠気をきたす疾患は本当はナルコレプシー以外にも多いのですが、患者さんはナルコレプシーと思い受診されることが多いです。
過眠症(ナルコレプシー)とは
仕事や学校などの日常生活に支障をきたすほど、日中強い眠気に襲われるというのが過眠症の一般的な症状です。
これが1か月以上続くようなら、過眠症(ナルコレプシー)の可能性がありますね。
ナルコレプシーはつぎのようになずけられました。
イギリス人のお医者さんのトーマス・ウィリス先生によって最初に報告されました。
1880年 フランス人の医師 ジャン=バティスト=エドゥアール・ジェリノー先生によって名付けられました。
ナルコは眠り、レプシーは発作という意味があります。
直訳すると眠り発作となります。
日本では600人に1人程度(0.16%)の罹患率が予想されております。
国際的にみると有病率は2000人に1人程度(0.05%)ですので日本人の有病率は群を抜いているようです。
発症
10~20代の発症が多く、13~16歳の思春期がピーク。
40才以上の患者さんが、ときにナルコレプシーだといって受診されますが
40才以上の発症はまれです。
ただし、本人が病気ときづかないで20代になりお仕事に支障をきたすことで受診をはじめます。
発症から確定診断までの平均はなんと15年ともいわれております。
ナルコレプシーの診断をするときに重要なのが、以下の四大症状です。
これらの症状にかけて日中の眠り発作のみの場合は、他の疾患を考えるべきです。
日中の過度の眠気(EDS)
100%の患者にでます。
日中、突然にたえがたい眠気におそわれます。
ナルコレプシーの居眠りは、5~15分程度で自然に目覚めることが多く、居眠りの後は一時的にリフレッシュ。
でも
数時間すると再度眠気に襲われることを繰り返します。
情動脱力発作(カタプレキシー)
76%ほどです。
笑いや喜び、号泣時あるいは自尊心がくすぐられるなどの感情がたかぶったときに、突然体の力が抜けてします発作です。
笑いすぎて足の力が抜けるという経験は多くのかたがあると思いますが、それがひどくなる状態です。
症状として、呂律がまわらなくなることもあります。
1916年に脱力発作はカタプレキシーと名付けられました。
入眠時幻覚
68%ほどです。
睡眠発作により睡眠におちいったとき、あるいは夜の入眠時に現実感の強い幻覚を見ることがあります。
このときにパニックにおちいったり、金縛りがでることもあります。
これは、入眠直後にレム睡眠状態になるためです。
レム睡眠は夢をみる時間です。
健常人では、1時間半くらいのサイクルでレム睡眠期がおとずれます。
寝不足などのとき以外は、通常は寝てからすぐに夢をみることはありません。
大脳皮質の前頭前野が覚醒時と同様に活動していることで、現実感をともなう夢をみている状態であると考えられてます。
また、このとき筋肉は脱力状態にあるため金縛り状態となり現実感をともなった夢が入眠時の幻覚として体験されます。
寝入り際に幽霊を見たといったたぐいの心霊現象を訴えられることもありますが、これも入眠時幻覚による症状と思われます。
睡眠麻痺
64%ほどの頻度です。
いわゆる金縛りと呼ばれる症状です。
目を開けて意識はありますが、体の筋肉を動かすことができなくなる状態です。
私もこのような経験を子供のころに数回くらい経験しました。
健常人でも経験しますが、ナルコレプシーの患者さんは頻繁に経験します。
睡眠障害
87%ほどのかたに認められます。
中途覚醒、熟睡困難など。
夜間就寝中になんども目が覚めたり、幻覚や睡眠麻痺があること
また、睡眠構築の乱れもあるため熟睡が困難である。
てんかんやびっくり病などは要鑑別疾患である。
脳腫瘍によるてんかん発作でナルコレプシーと近いものが報告されたことがあります。
過眠症(ナルコレプシー)の原因
遺伝的な要因に、ストレスなどの環境的な要因が加わって発症するといわれております。
ヒト白血球抗原HLAとの関連性
ヒト白血球抗原(HLA)は遺伝的な要因で、血液検査で調べることができます。
1983年の論文では、
人のナルコレプシーにおいては、HLA-DR2がほぼ全例で陽性であるとのこと。
日本人のナルコレプシー患者さんでは、ほぼ全例においてHLA-DQ1も陽性であるとのこと。
脳腫瘍や脳炎などの後遺症として起こることもあるようですが、詳しいことはわかっていません。
そのような背景はありますが、現在の医学では、ナルコレプシーはオレキシンの欠乏とされております。
オレキシンは覚醒レベルの維持、睡眠・覚醒状態の適切な維持・制御に大切な役割を持っています。
オレキシンは視床下部から分泌される神経伝達物質です。
1998年に櫻井武と柳沢正史らのグループによって発見されました。
オレキシン遺伝子を破壊したマウスにはナルコレプシー症状がでることを明らかにしました。
ヒトのナルコレプシー患者さんでも、視床下部のオレキシンを作る神経細胞が消滅していることを証明しました。
さらに、オレキシン神経細胞を破壊しナルコレプシーを引き起こしたマウスに、オレキシン遺伝子を導入したり、脳内にオレキシンを投与することでナルコレプシ
ー症状が改善されることも明らかにされております。
オレキシン(ヒポクレチン)神経は脳内モノアミンやヒスタミン、アセチルコリン神経系の起始核に密な投射を送ります。
それらの神経伝達物質の働きを調整して睡眠覚醒や摂食、エネルギー代謝に関与しています。
ナルコレプシーでは、オレキシン産生細胞が消失することでこれらの機能のバランスに不均衡が生じる。
過眠症状やレム睡眠関連症状、睡眠の分断化が出現。
ナルコレプシーの検査
・終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)・反復睡眠潜時検査(MSLT)
終夜睡眠ポリグラフ検査とともに、反復睡眠潜時検査による診断が有効です。
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
睡眠の状態と、睡眠に関連した生体活動を評価します。
脳波や眼球運動、心電図、筋電図、いびき、血中酸素飽和度など測定できる項目は多岐にわたります。
反復睡眠潜時検査(MSLT)
日中の眠気の程度やレム睡眠の出現の有無を評価します。
2時間毎に、5回睡眠潜時(眠るまでの時間)や入眠する様子を記録し、過眠症状をきたす病態を調べます。
ヒト白血球抗原(HLA)検査・髄液オレキシン検査
遺伝的な関連を判定できます。
診断基準について。
睡眠障害国際分類第2版 (ICSD-2) では以下のように分類します。
ナルコレプシーの分類
・情動脱力発作を伴うナルコレプシー
・情動脱力発作を伴わないナルコレプシー 診断には終夜PSGとMSLTの実施が不可欠
・身体疾患によるナルコレプシー
・特定不能のナルコレプシー
情動脱力発作を伴うナルコレプシーと身体疾患によるナルコレプシーでは、脳脊髄液中のオレキシン1(ヒポクレチン-1)の濃度が低くなっております。
なんと正常者の平均の三分の一の110pg/mL以下!!
これの値は、ナルコレプシーの補助診断基準に記載。
睡眠障害国際分類第3版 (ICSD-2) では以下のように分類します。
ナルコレプシーの分類(専門的内容です)
・ナルコレプシータイプ1
- 耐えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日、少なくとも3ヵ月間続く。
- 以下のうち、最低1つが存在する。
- 情動脱力発作があり、標準的な方法に従って実施されたMSLTにおいて、平均睡眠潜時が8分以下、かつ2回以上の睡眠開始時レム睡眠期(入眠時レム睡眠期、SOREMP)が認められる。前夜の睡眠ポリグラフ記録でSOREMP(入眠から15分以内)があれば、MSLTにおける1回のSOREMPの代替としてよい。
- 免疫反応性によって測定されるCSF中のオレキシンA(ヒポクレチン-1)濃度が110 pg/mL以下であるか、あるいは同一の標準化された測定によって得られる健常群の平均値の1/3未満である。
・ナルコレプシータイプ2
- えがたい睡眠要求や日中に眠り込んでしまうことが毎日、少なくとも3ヵ月間続く。
- 標準的な方法に従って実施されたMSLTにおいて、平均睡眠潜時が8分以下、かつ2回以上のSOREMPが認められる。
前夜の睡眠ポリグラフ記録でSOREMP(入眠から15分以内)があれば、MSLTにおける1回分のSOREMPの代替としてよい。 - 情動脱力発作が存在しない。
- CSF中のオレキシンA(ヒポクレチン-1)濃度が測定されていない、あるいは免疫反応性によって測定されるCSFオレキシンA濃度が110 pg/mLを超える、または健常群について同一の標準化された測定によって得られる平均値の1/3を超える。
- 他の原因、例えば睡眠不足症候群、閉塞性睡眠時無呼吸、睡眠・覚醒相後退障害、あるいは薬物または物質やその離脱の影響では、過眠症状やMSLT所見をよく説明できない。
ナルコレプシー タイプ 2(基準A~Eを満たす)
鑑別疾患
睡眠時無呼吸症候群 (OSAS)
睡眠中に上気道の完全あるいは部分的な閉塞のために、10秒以上の無呼吸あるいは低呼吸が繰り返し引き起こされる病態。
起立性調節障害
不眠症
真性過眠症
特発性過眠症(とくはつせいかみんしょう)
日中の眠気が主要症状ですが、眠気の性質がナルコレプシーとは異なります。
日中の眠気や居眠りが長時間続く、居眠り後や朝の起床時もリフレッシュせず寝ぼけの状態がしばらく持続する(睡眠酩酊)。
診断 ナルコレプシーと同じく終夜睡眠ポリグラフ(終夜PSG)および反復睡眠潜時検査(MSLT)
反復性過眠症(周期性過眠症)
覚醒不全症候群
うつ病(双極性)
季節性うつ病
周期
治療
他の過眠症と同じように、まずは夜の睡眠を十分にとる事が大切です。
可能であれば昼寝を取ることも突発睡眠の予防となります。
薬物療法
中枢神経(脳のこと)を刺激するお薬を使用することで、日中のねむけを防げます。
・メチルフェニデート* 製品名はリタリン
効果はありますが、依存性があり血中半減期が8時間くらいなので約4時間くらいしか効果なく、日中に二回以上飲む必要がでてきます。
・モダフィニル 製品名はモディオダール
日本でもっとも用いられる治療薬と思います。
ほかのメチルフェニデートやペモリンにくらべて依存性の問題が少ないことや
肝障害などをおこしにくいこと、副作用がすくないことからです。
最大30日分処方が可能になってます。
血中の半減期は12時間なので、朝のんでおくと約8時間くらい効果があるといわれております。
・ペモリン 製品名はベタナミン
モダフィニルと同じ様に血中濃度の半減期が12時間と長く、1日一回の投与でよいといわれております。
しかし肝臓への負担が強いので、血液検査などを頻繁におこなう必要がでてきます。
これらが眠気を抑制します。
情動脱力発作や睡眠麻痺をふせぐには
・レム睡眠の時間が短くなるようなお薬をつかいます。
三環系抗うつ薬やSSRI、SNRIといった抗うつ薬が用いられます。
*メチルフェニデートは、日本においては、不正使用や乱用の問題から登録医のみが処方可能となっております。
他のお薬などで充分な効果がえられない場合や、副作用などで他の方法が選べれないときに使用します。
日本睡眠学会では最初に使用するお薬にしてはいけないと注意しております。
モダフィニルの飲んでいる患者さんは、20代の方も多く覚醒物質をずっと飲むことに不安をいだかれるかたも多いのです。
根本的な治療でないこと、飲んでいるときだけで投薬を中止するともとの眠気状態にもどってしまいます。
しかし、ナルコレプシーの診断が誤りでなければ、
日中必要時に内服をおこなったり、
運動などをして覚醒レベルをあげることが、
将来の病気の程度を和らげたり治癒したりすることにつながると思います。
オレキシンがナルコレプシーに関連するため、オレキシン様化合物が新薬として期待されております。
2017年5月、筑波大学の柳沢正史教授らは、オレキシン様化合物の作成に成功したようです。
正常なマウスに投与すると覚醒時間がのびるようです。
また、持続的に投与するとナルコレプシー患者さんにおおい体重増加も抑えれるなどの効果が発表されております。
ナルコレプシーを患っている著名人
映画にもなった麻雀放浪記の作家で色川武大(阿佐田哲也)もナルコレプシーに罹患していたそうです。
それに、関係する作品もあるようです。
3月16日は世界睡眠デー
2007年、世界睡眠学会(WSS)が睡眠に関する知識の普及や啓発を目的として世界睡眠デーを制定しました。
春分の日の前週の金曜日になります。
世界中の70か国以上がこの世界睡眠学会に参加しております。
睡眠障害を予防して治療する。
そして、睡眠に関する問題が社会におよぼす悪い影響を少しでも減らす。
この二点を目標に世界睡眠学会では、多くの活動を行っております。