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視床下部からストレストリガーで片頭痛

先日、片頭痛の原因ということで頭のど真ん中にある視床下部というところからストレストリガーがでることを説明しました。

視床下部なんて言葉は普通の人は聞いたことがないと思います。

そして、その言葉を簡単にブログで使用してしまいました。実は、この視床下部って、頭のどこにあるかって知らない医師は多いと思います。

さらに私のような神経の専門医ですら知らない先生は多いと思います。

なぜ、視床下部について語るかというと、脳の中で最も大切な部位のひとつであり、今後最も注目される部位である可能性があるからです。

視床下部

脳が1400gですが、視床下部はたった4gの重さしかありません。

視床下部は自律神経や内分泌系などの指令塔である

片頭痛の原因を説明したブログで、視床下部の機能について 「自律神経系や内分泌系などの司令塔 」と説明しました。

この知識って実は小学校の高学年の理科で学んだみたいです。

内分泌のホルモンで成長ホルモンというのがあります。

成長ホルモンがでるのは下垂体(かすいたい)という視床下部より少し前に位置する部位からですが、そのホルモンを下垂体に出せと命令するのが視床下部からでる成長ホルモン放出ホルモンです。

ここまでのお話で「あっ!聞いたいことある!」と思った方は多いと思います。

だって、成長ホルモンって非常に大切なホルモンだから多くの人が興味をいだきます。

成長ホルモン

成長期にのみでるホルモンだと思ってませんか?

確かに、成長期に多くでて加齢とともに減少するホルモンです。

この減少の理由も司令塔である、視床下部に理由がありそうです。

後からのお話に関連しますが、この成長ホルモンはアインチエイジングホルモン(抗加齢ホルモン)と言われております。

運動などをした後には通常時よりも200倍もホルモンが分泌しますし、睡眠中にも同程度分泌されるといいます。

視床下部は臨床神経医にはあまり注目されていなかった

視床下部の機能が「自律神経系や内分泌系などの司令塔」だとわかったのは50年以上も前のことみたいです。

それから、目立った新たな機能の解明なかったのではないでしょうか。

片頭痛や群発頭痛時に視床下部の血流が増えるとか、睡眠時の血流の変化などいろいろ解明されてきましたが、新たな機能の解明は耳にしておりませんでした。

ところが近年、寿命と視床下部の関係が解明されつつあります。

動物の寿命の司令塔が視床下部である可能性がでてきました。

2017年8月3日付け、米国の科学誌 「ネイチャー」にZhang らが「視床下部の幹細胞が加齢のスピードをコントロールしている」とマウスを使った実験で証明し発表されました。

視床下部を破壊されたマウスは早く死ぬ

通常のマウスはだいたい二年間くらい生きれますが、月齢11ヶ月までに幹細胞(幹細胞)が減っていくことを見つけられたようです。

幹細胞というのは細胞が生まれる幹(みき)となる細胞ですので、それが消滅するということは視床下部が将来、消滅することを意味します。

月齢22ヶ月ですべての幹細胞は消滅するようです。

そして、視床下部の幹細胞を攻撃するウイルスを遺伝子操作によってつくり、月齢15ヶ月のマウスにこのウイルスを感染させてたところ、視床下部の幹細胞の約7割が破壊されました。なんと、マウスは早い時期から老化をはじめ、通常より約200日も早く死亡したのです。

約700日しか生きられない寿命のマウスにとって200日というのは驚くほどの時間です。

視床下部に幹細胞移植したマウスは長く生きる

今度は、生まれたばかりのマウスから中齢のマウスに幹細胞を移植しました。

すると、約200日も長く生きたとのことです。

つまり、700日の寿命が900日に伸びてしまったということになります。

日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳ですが(2016年)、この移植がもし人に可能であれば、単純には110歳まで寿命が伸びることになるということです。(マウスが自然寿命であることから、このようにはならないと思いますが)

【参考文献】Zhang Y et al. Hypothalamic stem cells control ageing speed partly through exosomal miRNAs. Nature. 2017;548:52-57.

年をとるということについて

神様のみが知っている人の運命ですが、このように医学的にはまだまだ寿命は延びる可能性があります。

聖書では120歳くらいが人間の寿命だと解釈しているのを耳にしたことがあります。

最高寿命は1970年頃からどんどん伸びてきてますが、1990年代には頭打ちになっております。

1997年にフランス人のジャンヌ・カルマンさんが前人未踏記録の122歳と164日で亡くなられたのが最後でそれ以降の最高寿命は更新されておりません。

ブランドン・ミルホランド教授によると「115歳くらいが人間の寿命の限界だろうと、たしかに115歳より長生きをされるかたもまだ出てくると思われますが、125歳まで生きられる確率は極めて低いだろう。」と言われております。

【参考文献】Dong X, Milholland B, Vijg J. Evidence for a limit to human lifespan. Nature. 2016;538:257-259.

有名な長寿のかた

昨年2017年は聖路加国際基督教病院の名誉院長の日野原重明先生がお亡くなりになりましたが、直前まで現役医師として働いておりました。

フランスではアマチュア自転車選手で有名なロベール・マルシャンさんが105歳で、一年前にパリ郊外の競輪場で22.528キロを一時間で走破するという快挙をなしとげております。