広島の頭痛外来診察室からです。

もくじ

「前兆(ぜんちょう)のある片頭痛(へんずつう)患者さんは脳梗塞のリスクが高い」と言われておりますが、これは45歳以下の女性患者さんにおいてのみのお話です。

45歳以下の女性でもともと脳梗塞がおこる率は少ないので、その中で脳梗塞のリスクが高くなっても実臨床においては問題を生じる結果ではないかもしれません。

一方、そのような患者さんにおける頭部MRI画像では深部白質(しんぶはくしつ)の動脈硬化性変化が多く見られるという報告もあります。

【参考文献】

Swartz RH et al.Migraine is associated with magnetic resonance imaging white matter abnormalities: a meta-analysis. Arch Neurol. 2004;61:1366-8.

Etminan Met al. Risk of ischaemic stroke in people with migraine: systematic review and meta-analysis of observational studies.BMJ. 2005;330:63-67.

喫煙や女性ホルモン剤製剤にくらべると脳梗塞になるリスクはうんと少ない

さきほども、リスク面ではもともと45歳以下での脳梗塞の危険性は少ないので、その少ないなかで脳梗塞になりやすいということですので、心配したり不安になる必要はないと思います。

さらに、喫煙や女性ホルモンの使用は45歳という年齢に関連なく脳梗塞になりやすくなりますので、前兆のある片頭痛の患者さんは喫煙や女性ホルモンの使用はだめなんです。

深部白質の変性

加齢による動脈硬化(どうみゃくこうか)が一番関連しているといわれており、虚血(きょけつ)による髄鞘(ずいしょう)という神経のまわりの蛋白(たんぱく)が変性(へんせい)してしまう結果と言われております。

画像上は次の写真のように大脳白質(はくしつ)という部分に星くずが散りばめたように出現する病変です。

20歳を過ぎたころから、だれでも脳の老化現象が画像化されはじめます。

頭蓋骨(とうがいこつ)と脳はそれまで、ゆっくりと成長し大きくなります。

20歳を過ぎると頭蓋骨の成長は止まり、脳は徐々に小さくなります。

その時に深部白質にもこの虚血性変化が徐々に出現し始めます。

通常は40歳を過ぎたころから画像ではっきりと指摘できます。

変性の危険因子と治療

高血圧(最大の要因) 積極的な血圧管理が必要です

・メタボリックシンドローム 生活習慣の管理(糖尿病・高脂血症の管理や、適度な運動)

・喫煙 禁煙しましょう 副流煙も同じですので注意しましょう

・脱水 十分に水分摂取をしましょう(個人差や、病気によっては水分制限もありますので要注意)

・加齢 しかたがないことです

・EPA/DHAが多い青魚などを多く食べましょう。(場合によっては後に記載しますサプリも有効です)

脳梗塞ではない

この動脈硬化性変化は小さな脳梗塞とか、ラクナ梗塞とか説明されたりしますが、これは誤りです。

脳梗塞の場合は神経細胞が障害される状態ですが、この動脈硬化性変化は神経細胞の死滅は起こってないとされております。

以前、NHKで隠れ脳梗塞として説明されておりましたが、動脈硬化を隠れ脳梗塞というならば、加齢現象そのものを隠れ脳梗塞といわないといけなくなり、言葉としては少し誤りだと思います。

本当に生理的な動脈硬化性変化なのか

多くは生理的な動脈硬化性変化ですが、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)などの免疫疾患(めんえきしっかん)や、リウマチ性疾患などの血管の炎症などにより、稀ですが脳腫瘍などによっても似たような変化をきたすことがありますので、定期的な検査をすべき症例があります。

一般的には一年位の間隔で比較すること、白質変化はどの部位にどの程度存在するのかをみていくことが有用といわれております。

(専門的ですみません。篠原先生らは以下のように深部白質病変をまとめております)

  • グレード0:なし
  • グレード1:直径3 mm未満の点状病変,または拡大血管周囲腔
  • グレード2:3 mm以上の斑状で散在性の皮質下~深部白質の病変
  • グレード3:境界不鮮明な融合傾向を示す皮質下~深部白質の病変
  • グレード4:融合して白質の大部分に広く分布する病変
    (Shinoharaら 2007 (一部改変))

我が国の、脳ドックの追跡調査報告では高度な白質病変と無症候性脳梗塞の存在が最大の脳卒中発症の危険因子で、特に高度大脳白質病変のオッズ比10.6は無症候性脳梗塞のオッ
ズ比8.8よりも高かったと報告されております。

【参考文献】 小林祥泰.無症候性脳梗塞の臨床的意義.神経研究の進歩 2001;45:450-460

イヌイットでは深部白質の動脈硬化性変化が減少する

グリーンランドに住むイヌイットでは、心筋梗塞などの血管障害による死亡率が有意に低いようです。

この理由として、イヌイットがEPAを多くふくむアザラシやイワシなどを食べていることが推定されております。

つまり、EPA/DHA製剤が深部白質の動脈硬化性変化の進行を抑制する可能性があるということになります。

EPA/DHA製剤はサプリメントで販売されておりますが、一部のサプリメントでは十分量を補えないようです。

EPAはエイコサペンタエン酸の略ですが、不飽和脂肪酸で、ヒトの体のなかでは作ることができない必須脂肪酸です。

【参考文献】Dyerberg J, et al. Lancet 1978;2:117-9

地中海料理をよく食べる人には白質変性が少ない

地中海料理といえば、パスタやパエリア、ブイヤベースなどがあげられますが、この料理が白質変性を少なくさせるようです。

・オリーブオイル オレイン酸

・魚介類 DHAやEPA

・くるみなどのナッツ類が多い オレイン酸

【参考文献】Gardener et al.Mediterranean diet and white matter hyperintensity volume in the Northern Manhattan Study.Arch Neurol. 2012; 69: 251-256.

当院で、実際患者さんの採血をしてみました。

56歳の女性です。以前より健康のために市販されているEPA/DHAサプリを飲んでました。

当院には頭痛を主訴に来られましたが、前兆のない片頭痛でした。

同日撮影の頭部MRIにて深部白質に強い変性変化を認めました(グレード4です)。

EPAが属している脂肪酸(しぼうさん)四分画とそれ以外でアラキドン酸という脂肪酸の比率をみてみました。

するとサプリを毎日飲んでるにもかかわらずこの比率は0.47と低かったのです(比率は0.6以上理想をいえば、0.8以上ないと心筋梗塞や脳血管障害の予防効果は乏しいとされております)。

ほかに、高脂血症もあり、すぐに、ロトリガ(EPA/DHA製剤)というお薬を処方しました。

多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)の脱髄性視神経症(だつずいせいししんけいしょう)にクレマスチンが有効である可能性

多発性硬化症は神経免疫病(しんけいめんえきびょう)です。

落語家の林家こん平さんが24時間テレビ出演後(2004年)に診断された病気です。

手足がマヒし、噺家の命でもある声も出せない状態となり、療養のため、2004年9月12日放送回から『笑点』を降板されております。

この疾患にクレマスチンというお薬が効果あるとのことです(まだ、未確定な要素は多いようです)

クレマスチンとはアレルギー性皮膚疾患(蕁麻疹、湿疹、皮膚炎、そう痒症)、アレルギー性鼻炎に対するお薬です。

三か月使用すると髄鞘(ずいしょう)という神経のまわりの蛋白の障害が治癒傾向にむかったというデータです。

「この結果から、髄鞘の修復は長期にわたる損傷後も達成可能であると示唆された。」と言われております。

いままで紹介した白質変化に対する治療はEPA/DHAでしたが、多発性効果症という免疫疾患についてはまた別のアプローチも有効であるようです。

【参考文献】Green AJ, et al. Lancet 2017; 390: 2481-2489.

*個人的な見解ですが、深部白質の変性は正常で生理的におこりうる変化なので学会では深部白質病変と使用しておりますが、私どもはあえて病変とよんでおりません。

脳ドックなどでも明らかに病的でない場合は、できるかぎり病変という表現はさけております。

しかしながら、大脳白質変性の程度と大うつ病・認知障害・感情の障害・軽度認知障のあいだには、切っても切れないつながりがりがあります。

不必要に不安感をますことにならなければ病気と考えて対応する姿勢も大切といえます。

【参考文献】

O’Brien J, Ames D, Chiu E, Schweitzer I, Desmond P, Tress B. Severe deep white matter
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de Groot JC, de Leeuw FE, Oudkerk M, van Gijn J, Hofman A, Jolles J, et al. Cerebral
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Doddy RS, Massman PJ, Mawad M, Nance M. Cognitive consequences of subcortical
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DeCarli C, Miller BL, Swan GE, Reed T, Wolf PA, Carmelli D. Cerebrovascular and brain
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Blood Institute Twin Study. Arch Neurol 2001;58:643-647