もくじ
ハロペリドール静注とジストニアのリスク
こんにちは、いのうえ内科脳神経クリニックです。
当院では主に頭痛診療を専門に行っておりますが、神経内科全般の知識と経験を活かし、患者さんの生活の質を向上させるための診療を心がけています。
今回のブログでは、頭痛とは異なるテーマですが、神経内科領域において重要な話題である「ハロペリドール静注とジストニアのリスク」についてお話ししたいと思います。
1. ハロペリドールの静注は適切か?
ハロペリドール(商品名:セレネース)は、統合失調症やせん妄、強い興奮状態の治療に使用される抗精神病薬の一つです。
しかし、ドーパミン受容体を強力に遮断する作用を持つため、副作用として錐体外路症状(EPS)が出現することが知られています。
その中でも特に注意が必要なのが ジストニアの悪化 です。
ハロペリドールは経口・筋注・静注のいずれの投与経路でも錐体外路症状を引き起こす可能性がありますが、
特に静脈投与は急激に血中濃度が上昇し、急性ジストニアを誘発しやすい ため慎重な判断が求められます。
2. ジストニアを持つ患者への影響
ジストニアとは、意図しない筋収縮によって異常な姿勢や反復する不随意運動が生じる疾患です。
基底核の障害によって生じることが多く、特に 被殻や視床の虚血、低酸素脳症後の後遺症 として発症することがあります。
こうした背景を持つ患者に対してハロペリドールを使用すると、既存のジストニアが 劇的に悪化 するリスクが高くなります。
また、ジストニアを有する患者は神経回路が不安定な状態にあるため、ドーパミン遮断によって 症状が長期化し、元の状態に戻りにくくなる 可能性も考慮しなければなりません。
3. ハロペリドール静注の問題点
・ 急激な血中濃度の上昇による急性ジストニアのリスク
・ 基底核障害がある患者では長期的な悪化を招く可能性
・ 体性感覚誘発電位(SEP)などの検査結果に筋収縮が入り影響を与える可能性
・ 可塑性のある脳においては、より適切な薬剤選択が重要
特に、脳の回復や可塑性を期待する状況では、過度に強力なドーパミン遮断薬の使用は慎重に考えるべきです。
例えば、同じ抗精神病薬であるクエチアピン(セロクエル)は比較的ドーパミンD2受容体遮断作用が弱く、神経可塑性を妨げにくいというメリットがあります。
そのため、せん妄や幻覚の治療を目的とする場合には、より適切な薬剤選択を考慮すべきでしょう。
4. まとめ
ハロペリドールは有効な抗精神病薬ではありますが、基底核障害やジストニアを持つ患者には 慎重な投与が求められます。
特に静脈投与は急性ジストニアのリスクが高く、検査結果にも影響を与える可能性があるため、使用する際には十分な検討が必要です。
また、ジストニア治療にハロペリドールが有効だと考える神経内科医師もいるため、治療方針については 医師同士で十分に議論を重ねることが重要 だと考えます。
このようなことを書くと、「私が抗精神病薬を嫌っているのではないか」と判断される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私は 抗精神病薬を否定しているわけではなく、患者さんの状態や病態に応じた適切な薬剤選択が重要である と考えています。
例えば、脳の可塑性を考慮しつつ幻覚などの症状を和らげるためには、ドーパミン遮断作用の強さや副作用のリスクを十分に考慮した上で、より適した抗精神病薬を選択すべきだと考えています。
当院では、患者さんやご家族の不安を軽減しながら、 より安全で根拠に基づいた治療 を提供することを心がけています。
もし、神経内科疾患に関するご不安があれば、お気軽にご相談ください。
参考文献
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「鎮静目的のハロペリドール単独使用のエビデンスは蓄積されたのか?」(CareNet.com)
- この文献では、ハロペリドール単独投与群で急性ジストニアの発生率が高かったことが報告されています。 carenet.com
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「ジストニア診療ガイドライン 2018」(日本神経学会)
- このガイドラインでは、ハロペリドールなどの抗精神病薬がジストニアの原因となる可能性が示唆されています。 neurology-jp.org
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「PONV対策におけるドーパミン拮抗による制吐薬:新しい時代に突入?」(Anesthesia Patient Safety Foundation)
- この文献では、ハロペリドールの静脈内投与がQT延長やトルサード・ド・ポアントのリスクを高める可能性が指摘されています。 apsf.org
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「セレネース注5mg」(今日の臨床サポート)
- ハロペリドールの用法・用量に関する詳細が記載されており、静脈内投与の際の注意点が述べられています。