いのうえ内科脳神経クリニック院長、脳神経内科専門医・頭痛専門医の井上です。

近年、スマートフォンの長時間使用によって、「物忘れがひどい」「集中力が続かない」「片頭痛が悪化する」といった症状を訴える方が増えています。
このような状態は、俗に「スマホ認知症」とも呼ばれ、脳の働きや睡眠に影響を与えている可能性があります。

今回は、脳神経内科専門医・頭痛専門医としての立場から、スマホ使用と脳機能の関係について、片頭痛や睡眠障害、さらには“行為実行機能”の観点も含めてわかりやすく解説いたします。

もくじ

【脳とスマホ】スマホ認知症と片頭痛・睡眠障害の意外な関係

〜脳神経内科・頭痛専門医の立場から〜

こんにちは。
いのうえ内科脳神経クリニック院長、脳神経内科専門医・頭痛専門医の井上です。

皆さんは「スマホ認知症」という言葉を耳にしたことがありますか?
正式な医学用語ではありませんが、これはスマートフォンの長時間使用が脳に与えるさまざまな影響を表す“現代型脳疲労”の一つとして注目されています。

今回は、片頭痛や睡眠障害との関係、さらには行為実行機能障害(executive dysfunction)の観点も交えながら解説いたします。


■ スマホ認知症とは?

スマホ認知症は、スマートフォンを過度に使用することで、一時的な記憶力低下、集中力の減退、注意散漫、感情の不安定化などが起こる状態を指します。

実際、診察室では以下のような訴えを耳にします:

  • 「名前がすぐ出てこない」
  • 「すぐ他のことに気が取られてしまう」
  • 「注意していても物忘れがひどい」
  • 「段取りよく行動できなくなった」

これらは、脳の中でも「前頭前野(PFC)」や「海馬」と呼ばれる領域の機能低下によるものであり、長時間のスマホ使用がそれらの領域を過剰に疲弊させる可能性があります。


■ 行為実行機能障害(executive dysfunction)との関連

行為実行機能とは、目標を立て、計画し、実行するまでの一連の流れを適切に制御する能力です。
スマホの過使用によって、以下のような障害が見られることがあります:

  • 段取りよくタスクを進められない(計画力低下)
  • 気が散って物事を途中で投げ出す(持続力の低下)
  • 衝動的に反応してしまう(抑制力の低下)

これは、デジタル機器による注意資源の分散や、脳が常に報酬刺激(SNS通知や動画視聴など)にさらされていることによって、前頭前野の「思考の整理と抑制能力」が弱まっているためと考えられます。


■ ブルーライトと片頭痛の関係 〜「緑色は良い色」だけでは語れない〜

スマホやPCなどのディスプレイから発せられるブルーライト(短波長の青色光)は、メラトニンの分泌抑制交感神経の過活動、そして片頭痛の誘発に関係しています。

また、ディスプレイに使われるRGB(Red, Green, Blue)光の中で、緑(G)成分が刺激になりうるという研究もあります。

ここで補足:
緑色は本来、目に優しくリラックス効果をもたらす色とされており、日本頭痛学会のロゴもグリーンが使われています。
実際、自然界の緑(森林など)は片頭痛の予防環境として理想的です。

しかし、スマホやPCの緑は「発光体」であり、暗い室内で長時間見続けると、視覚野や視床を過刺激してしまい、視覚誘発性片頭痛(visual migraine)を引き起こすことがあります。

▼ 具体的なリスク要因:

  • ディスプレイの輝度が高い
  • 寝る前の暗室でスマホを見る
  • スクロールや点滅が多い画面に集中する
  • 長時間視線を固定する

■ 就寝前3時間以内のスマホ使用がもたらす睡眠障害

スマホから発せられるブルーライトは、脳の体内時計(概日リズム)に影響を与えます。
具体的には、網膜から脳の視交叉上核を介して松果体
に伝わり、「メラトニン(睡眠ホルモン)」の分泌を抑制します。

▼ エビデンスによると:

  • 米国PNAS誌(2011)の研究では、就寝前2時間のスマホ使用でメラトニン分泌が22%低下
  • 入眠までの時間が平均1時間遅延
  • 睡眠の深さが浅くなり、翌日の認知機能が低下

■ 脳を守るためのスマホとの上手な付き合い方

項目 推奨される対策
スマホ使用時間 1時間連続で使わず、20分ごとに目を休める
睡眠前の使用 就寝3時間前には使用を控える
画面設定 ナイトモード・ブルーライトカット・輝度低下を活用
環境整備 自然光や観葉植物のある空間で過ごす

■ まとめ

スマホは現代の便利なツールである一方で、「脳の疲労」「片頭痛の誘発」「行為実行機能の低下」「睡眠の質の悪化」など、目に見えない影響を与えています。

何より重要なのは、“スマホをコントロールする”意識を持つことです。

当院では、こうしたスマホ過使用による不調を訴える方に対して、脳神経内科・頭痛専門医の立場から頭痛・集中力低下・睡眠障害の包括的診療を行っております。
ご心配のある方は、ぜひご相談ください。