🤰 妊娠中の片頭痛、薬を飲んでも大丈夫? ― 治療薬の選び方とMRI検査について
こんにちは。いのうえ内科脳神経クリニックです。
「妊娠してから片頭痛がひどくなりました」
「妊娠に気づかず、片頭痛の薬を飲んでしまいました」
「授乳中ですが、頭痛薬を飲んでも大丈夫でしょうか?」
当院でも、このようなご相談をいただくことがあります。
妊娠中は、お母さん自身の健康だけでなく、おなかの赤ちゃんへの影響も考えなければなりません。
しかし、妊娠中だからといって、すべての頭痛薬が使えないわけではありません。
また、妊娠中の頭痛には、片頭痛以外の病気が隠れていることもあります。
今回は、妊娠中・授乳中の片頭痛治療と、MRI検査が必要になる頭痛についてお話しします。
🌸 1.妊娠すると片頭痛はどうなる?
実は、妊娠すると片頭痛が軽くなる女性は少なくありません。
特に、月経に関連して片頭痛が起こる方では、妊娠中に女性ホルモンの変動が少なくなることで、頭痛が改善することがあります。
一方で、妊娠初期には、睡眠不足、つわりによる脱水、生活リズムの変化などによって、頭痛が悪化する方もいます。
また、出産後には女性ホルモンが急激に変化するため、片頭痛が再び増えることがあります。
妊娠中の片頭痛は、妊娠前と同じ治療を続ければよいとは限りません。
妊娠の時期や症状に合わせた治療が必要です。
💊 2.妊娠中に使える片頭痛の薬は?
① アセトアミノフェン(カロナールなど)
妊娠中の片頭痛に対して、一般的に第一選択となる鎮痛薬です。
比較的使用経験が豊富で、必要な場合に使用できます。
ただし、無制限に使用してよいという意味ではありません。
必要最小限の量と期間で使用することが基本です。
② トリプタン製剤(スマトリプタンなど)
片頭痛発作に対して効果のある薬です。
以前は妊娠中の使用を避ける傾向がありましたが、近年の研究では、特にスマトリプタンについて、妊娠初期の使用による先天奇形の明らかな増加は確認されていません。
そのため、頭痛が強く、ほかの治療では十分な効果が得られない場合には、医師が必要性とリスクを判断して使用することがあります。
ただし、妊娠中の安全性が完全に証明されたわけではありません。
③ プリンペラン(メトクロプラミド)
片頭痛には、頭痛だけでなく、吐き気や嘔吐が伴うことがあります。
プリンペランは吐き気を抑える薬で、妊娠中にも必要に応じて使用されます。
また、吐き気を改善するだけでなく、片頭痛発作そのものの改善に役立つ場合もあります。
ただし、眠気や落ち着かなさ、筋肉の異常な動きなどの副作用に注意が必要です。
妊娠中に使用できる薬ですが、医師の判断のもとで適切に使用することが大切です。
⚠️ 3.CGRP関連製剤は妊娠中に使える?
近年、片頭痛治療は大きく進歩しました。
特にCGRPという物質の働きを抑える薬は、片頭痛の予防に高い効果を示しています。
代表的な注射薬には、次のようなものがあります。
- エムガルティ(ガルカネズマブ)
- アジョビ(フレマネズマブ)
- アイモビーグ(エレヌマブ)
これらの薬は、片頭痛の予防に有効ですが、妊娠中の使用は原則として推奨されていません。
その理由は、妊婦さんに対する十分な安全性データがまだないためです。
また、CGRPは血管の調節や胎盤の血流にも関係しているため、その働きを抑えることによる胎児への影響が懸念されています。
これらの注射薬は体内に長期間残るため、妊娠を計画している場合には、一般に妊娠予定の約6か月前から中止を検討します。
ただし、妊娠に気づかず注射を受けてしまった場合でも、直ちに赤ちゃんに異常が起こるという意味ではありません。
慌てずに、投与した薬剤名と最終投与日を医師に伝えてください。
なお、内服のCGRP受容体拮抗薬についても、妊娠中は原則として使用を避けます。
🍼 4.授乳中の片頭痛治療は?
授乳中は、薬が母乳に移行する可能性を考慮する必要があります。
しかし、母乳に薬が移行することと、赤ちゃんに有害な影響が起こることは同じではありません。
例えば、アセトアミノフェンやスマトリプタンは、授乳中にも比較的使用しやすい薬とされています。
一方、プリンペランは母乳に移行します。
乳児への影響は一般に小さいと考えられていますが、眠気、消化器症状などに注意が必要です。また、母親自身の副作用にも配慮しなければなりません。
プリンペランは授乳中に一律に禁止される薬ではありませんが、必要性を慎重に判断して使用します。
授乳中に薬を使用する場合は、薬の種類、服用量、赤ちゃんの月齢などを考慮して判断します。
🧠 5.妊娠中に初めて「片頭痛の前兆」が出たらMRIを考えます
ここは特に重要なお話です。
片頭痛には、頭痛が始まる前に「前兆」と呼ばれる神経症状が現れるタイプがあります。
代表的なものとして、
- 目の前にギザギザした光が見える
- 視野の一部が見えにくくなる
- 手や顔にしびれが広がる
- 言葉が出にくくなる
などがあります。
典型的な片頭痛の前兆では、症状が徐々に広がり、通常5〜60分程度で改善します。
しかし、これらの症状は片頭痛だけに起こるものではありません。
脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)などでも似た症状が現れることがあります。
さらに妊娠中は、脳静脈洞血栓症、妊娠高血圧症候群に関連した脳血管障害、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)などにも注意が必要です。
そのため、妊娠中に初めて前兆のような症状が現れた場合には、片頭痛と決めつけず、MRIなどによる精査を積極的に検討します。
特に、突然始まった片側の麻痺、言語障害、視力障害などがある場合には、症状が消えても救急受診が必要です。
妊娠中でもMRIは受けられる?
MRIは放射線を使用しない検査です。
医学的に必要と判断される場合には、妊娠中でも造影剤を使わないMRI検査を実施できます。
ただし、妊娠中の造影MRIは通常避け、必要性を慎重に判断します。
MRIやMRA、必要に応じてMRV(脳静脈の検査)などを組み合わせることで、脳血管の病気を調べることができます。
🚨 6.妊娠中に注意したい危険な頭痛
妊娠中の頭痛をすべて片頭痛と考えてはいけません。
特に、次のような場合には早急な診察が必要です。
- 突然起こった、これまで経験したことのない激しい頭痛
- 手足の麻痺や言語障害を伴う頭痛
- 意識障害やけいれんを伴う頭痛
- 高血圧を伴う強い頭痛
- 今までの片頭痛とは明らかに違う頭痛
- 出産後に新しく出現した強い頭痛
妊娠20週以降では、妊娠高血圧症候群や子癇前症にも注意が必要です。
こうした症状がある場合には、通常の片頭痛治療よりも、危険な病気を除外することが優先されます。
🌿 7.薬以外にできる片頭痛対策
妊娠中は薬の選択肢が限られるため、日常生活の工夫も大切です。
十分な睡眠、規則正しい食事、適切な水分補給、空腹を避けることなどが役立ちます。
また、片頭痛が起こったときには、静かで暗い部屋で休むことで症状が軽くなる場合があります。
ただし、生活習慣を整えても片頭痛が完全になくなるとは限りません。
つらい頭痛を我慢し続ける必要はありませんので、医師にご相談ください。
🌷 まとめ ― 妊娠中でも片頭痛の治療はできます
妊娠中の片頭痛治療では、お母さんと赤ちゃんの両方の安全を考えることが大切です。
アセトアミノフェンを中心に、必要に応じてスマトリプタンやプリンペランなどを検討します。
一方、CGRP関連製剤は妊娠中の安全性が十分に確立されていないため、原則として使用を避けます。
そして、もう一つ大切なことがあります。
妊娠中に初めて現れた前兆や、これまでと違う頭痛を、安易に片頭痛と決めつけないことです。
必要に応じてMRIなどの検査を行い、脳血管の病気が隠れていないか確認することが重要です。
妊娠中だからといって、頭痛を我慢する必要はありません。
安全性を考慮しながら、適切な治療を一緒に考えていきましょう。
いのうえ内科脳神経クリニック
頭痛・片頭痛について、お気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な医学情報です。妊娠中・授乳中の薬剤使用は、妊娠週数や症状、併存疾患などを考慮して個別に判断します。


