広島でクリニックを開業しております。
ブログでは患者さんがお困りの症状について書きます。
先生!頭が締め付けられるように痛いです。
いつからですが?
ある日を境に突然です。
頭痛専門医はこの頭痛を見た時に二次性頭痛、つまりなんらかの器質的な原因がある頭痛をまず鑑別します。
発熱はないか、全身状態は、神経系に異常はでてないか?
そして頭部MRIでは異常はないか?
これらをすべてパスしたときに出す診断名が
もくじ
新規発症持続性連日性頭痛(しんきはっしょうじぞくせいれんじつせいずつう)というものです!
英語ではNew daily persistent headacheと書きます。
略語はNDPH(エヌディーピーエイチ)です。
国際頭痛分類による診断基準です。
A. B-D を満たす頭痛が 3 ヵ月を超えて続く
B. 頭痛が,発症時または発症後, 3 日未満から寛解することなく,連日みられる
C. 次の痛みの特徴のうち少なくとも 2 項目を満たす
- 両側性
-
圧迫感または締めつけ感(非拍動性)
-
程度は軽度~中等度
-
歩行または階段を昇るなどの日常的な動作により増悪しない
D. 以下の両方を満たす
- 光過敏,音過敏,軽度悪心は,あっても 1 項目のみ
-
中等度または重度の悪心,嘔吐のいずれもない
E. その他の疾患によらない
つまり、診断は、過去に頭痛の既往がないにもかからわず急に発症し、その後頭痛がずっと続くといった問診を得ることで容易に診断できます。
この病気は、現在治療法が確率されておらず。
難治性とされております。
抗てんかん薬のガバペンやトピナを使用することで軽快したという報告があるぐらいです。
しかし、この疾患は診断基準に満たす前に病院に受診されることが多いと考えられます。
診断基準のAに注目
頭痛が三ヶ月以上続く場合となっております。
つまり、当院には頭痛発症後三ヶ月以内に受診されます。
そのような患者さんにはガバペンやトピナ、あるいは片頭痛の予防薬でもあるトリプタノールなどを使用します。
(ガバペンやトピナ、トリプタノールは保険適応にはなっておりません。)
すると頭痛が軽快する例が多くみられます。
これらの患者さんは診断基準の三ヶ月以上を満たさないことになるので診断はできませんでした。
英語では、時宜を得た一針は九針の手間を省く、今日の一針、明日の十針というのがありますが、
頭痛も早期治療が大切だと思います。
診断基準のEに注目
低髄液圧,外傷後,感染症後などを除外することが重要であるとされております。
髄液漏出症は診断したことがない専門医はまだ多いと思われますが、体位などによる頭痛の状態の変化に気づけば診断は比較的容易にできます。
ここで最も難しい病気を提示します。
ジストニックペイン!
ジストニックというのは運動機能異常であるジストニアのことです。
ジストニアは筋肉の緊張がコントロール不能になった状態です。
弛緩(しかん)すべき筋肉が緊張したり、収縮(しゅうしゅく)すべき筋肉が緊張します。
目を開けようとした時に閉じようとする筋肉が無意識に働くのを眼瞼痙攣(がんけんけいれん)というジストニアといいます。
首が曲がって正面を向けなくなる頸性斜頸(けいせいしゃけい)も頸性ジストニアといいます。
ジストニッックペインとはそのようなジストニアによる筋肉の異常収縮によって起こる痛み(ペイン)のことです。
我々は無意識のうちに大なり小なりに変な姿勢をとります。
自然にしていると右肩があがっていたり、首を突き出したような姿勢になったりします。
これが、極端になったのがジストニアによる斜頸といってもいいでしょう。
人によって、姿勢は大して問題はないのに首の後ろの筋肉にだけ緊張をきたすかたもいらっしゃいます。
そうです、このような方の緊張型頭痛様の頭痛がまさにジストニックペインであったりもします。
つまり、新規発症持続性連日性頭痛にみえた頭痛がジストニックペインであることもあります。
診断基準のE その他の疾患によらない。
洞察力を欠いた診断では、その他の疾患をみつけることができなくなってしまいます。
もしかしたら、この難治性といわれる新規発症持続性連日性頭痛は原因がみつけることができなかった結果の診断名なのかもしれませんね。
ジストニックペインの治し方
首の後ろや肩あるいは頭部の筋肉が勝手に緊張する状態が続くから生じるので、その状態を緩和させることが治療になります。
日常生活習慣の見直しと内服治療がこの治療法になります。
日常生活習慣の見直し
言うは易し行うは難しです。
体に無意識のうちに不必要に力がはいってないかの確認です。
鏡を見たり、自分の姿勢を写真にとってもらったりします。
家族に姿勢のチェックをしてもらうのもよいと思います。
我々は、自分は正しい姿勢をしているつもりでも、客観的にみるととんでもない姿勢をしていることがあるからです。
これらを客観的にみて評価して治していきましょう。
つぎに、どのようなことをすると体の不必要な力が抜けるかです。
自分の手を顎にあてているとき
メガネをかけているとき
マフラーや磁気ネックレスをしているとき
腕時計をしているとき
コンピューターマウスをトラックボールマウスに変えたとき
モニターの画面の高さを調整したとき
ウオーキングや散歩をしているとき
腕立て伏せや腹筋トレーニングをしているとき
などなど
これらの動作をしているときに体の不必要な力が抜けるようであれば、積極的にそのような動作を続けることと思います。
逆にこれらの動作で体の力が不必要に入る場合は、それらの動作を避ける様にするとよいでしょう。
これらは肩こりの治療と共通しますね。
お薬による治療
脳内伝達物質のアセチルコリンを抑制するようなお薬を使用することがあります。
具体的にはトリフェキシフェニジルという抗コリン薬というおくすりです。
脳の基底核という扇型の部分には何種類もの神経伝達物質が投射されます。
これらの伝達物質の量が不均衡になることで筋肉が勝手に収縮するような状態、つまりジストニアになるといわれます。
抗コリン薬を使って一斉にアセチルコリンの働きを落としてあげるとこれらの神経伝達物質が均衡に働きはじめるといわれております。
ボトックスによる治療
ボツリヌス菌という食中毒の菌が作り出す毒素を使用します。
筋弛緩させたい筋肉に少量注射します。
効果は二ヶ月から三ヶ月ですが、くりかえすことで脳内基底核の伝脱物質の調整ができて完治することもあります。
ただし、ジストニックペインといった痛みのみでは保険適応にはなっておりません。
鍼治療・漢方治療
患者さんの体質をみてから治療すると効果があります。
筋肉が収縮しているからと筋弛緩のみを目的としたアプローチは奏功しないことが多いです。
*なお当院では鍼治療は行っておりませんので鍼治療希望のかたは紹介させていただいております。
まとめ
1新規発症持続性連日性頭痛という頭痛を紹介しました。
2新規発症持続性連日性頭痛と思われる症例は早期治療が奏功します。
3新規発症持続性連日性頭痛と思われる症例のなかにジストニックペインが隠されてます。
4ジストニックペインとはについて説明しました。
5ジストニックペインの治療方法について説明しました。
*最近、鍼治療・東洋医学・整体などの治療院のかたが患者さんの異常筋収縮を見つけていただいております。
当院に、紹介していだき誠に感謝いたしております。
器質的疾患があった患者さんもいたり、ジストニックペインであったりします。
この症状は慣れてくると自分でもうまく説明できなくなるのかも知れません。
他覚的な評価が大切な疾患の一つです。