もくじ

延命治療について考える

こんにちは、いのうえ内科脳神経クリニックの院長です。

当クリニックでは、頭痛を中心とした診療を行っていますが、医療に関するさまざまなテーマについてもブログで発信しています。今回は「延命治療」について、さまざまな視点から考えてみたいと思います。


1. 医療者としての視点

医療の進歩により、人工呼吸器や胃ろう、透析など、さまざまな手段で生命を延ばすことが可能になりました。これにより多くの命が救われてきた一方で、「延命治療をどこまで続けるべきか」という難しい問題も生じています。

医療者として私たちは、

  • 「患者さんにとって最善の選択を、一緒に考えていきましょう。」
  • 「延命治療は命をつなぐことが目的ですが、それが患者さんの望む生き方につながるかが大切です。」
  • 「延命治療をするかどうかは、ご本人やご家族の価値観によるものです。どの選択にも正解・不正解はありません。」

ということを常に意識しながら、患者さんとご家族に寄り添い、最善の判断を支援する役割を担っています。

また、医療の現場では「治療を行うことが本当に患者さんにとって最善なのか?」という問いが日々繰り返されています。延命治療は時として、患者さんのQOL(生活の質)を大きく損なう可能性があり、その選択には慎重さが求められます。

*時に、神様と思っている医師がいるかもしれませんとある方から。医師は神様ではないから患者さんの判断にそれは正しい選択だとか、誤った選択だとか上から目線は避けたいです。


2. 家族の立場から

大切な人の命を守りたいという気持ちは、誰にとっても自然なものです。しかし、延命治療が本人にとって最良の選択なのかどうか、慎重に考える必要があります。

  • 「大切な人の命を守りたい。でも、その人がどのように生きたいと思っていたかを考えたい。」
  • 「延命ではなく、その人らしく穏やかに過ごせる時間を大切にしたい。」
  • 「苦しみが少なく、安らかに過ごせるように見守りたい。」

時には、家族の決断が本人の意志を超えてしまうこともあります。「何が正しい選択なのか」と悩むことは当然ですが、最も大切なのは、本人の希望を尊重しながら、家族として後悔のない選択をすることです。

また、家族間で意見が分かれることも少なくありません。「できるだけ延命してほしい」と願う家族と、「本人の希望を尊重して治療を控えたい」と考える家族が対立することもあります。こうした場合には、主治医や専門家と相談し、家族全員が納得できる形で結論を出すことが重要です。


3. 患者本人の視点

患者さん自身は、どのような最期を迎えたいと考えているでしょうか。

  • 「できる限り自分の意思で生きたい。無理な延命は望まない。」
  • 「最後の時間を、家族と穏やかに過ごしたい。」
  • 「治療がどこまで意味を持つのか、しっかり考えたい。」

可能であれば、事前に「もしもの時」の意思を家族に伝え、共有しておくことが理想的です。

また、日本ではまだ「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の認知が十分に広まっていません。ACPとは、「将来、判断能力が低下したときに備え、本人の希望を事前に話し合い、文書に残しておくプロセス」です。これにより、家族が「本人の意思がわからない」という状況に直面することを防ぐことができます。


4. 哲学的・宗教的な視点

医療は人間の命を延ばす手段を提供しますが、それが必ずしも「生きることの質」や「幸福」と直結するわけではありません。

  • 「生と死はつながっており、どちらも自然なもの。」
  • 「人は限りある命をどう生きるかが大切であり、最期の選択もその一部。」
  • 「医学の進歩で命を長らえることはできるが、それが必ずしも幸せとは限らない。」

宗教や哲学によって死生観は異なりますが、どの考え方にも共通するのは「人生をどう生きるか」という問いです。

仏教では「無常」という考え方があり、「すべてのものは変化し、永遠に続くものはない」とされています。キリスト教では「死後の世界」を前提に、生きている間の善行が重要視されます。このように、宗教によって死に対する捉え方は異なりますが、いずれにしても「どのように生きるか」を考えることが、延命治療の判断にもつながっていくのではないでしょうか。


延命治療を考える際に大切なこと

  1. 本人の意思を尊重する(可能なら事前に意向を確認する)
  2. 「延命=幸せ」ではないことを理解する(QOLとのバランスを考える)
  3. 家族が後悔しない選択をする(どんな選択をしても、悔いが残らないように)
  4. 医療者と相談しながら決める(医療的な可能性や負担を理解する)
  5. アドバンス・ケア・プランニングを活用する(事前の話し合いを大切に)

延命治療に対する考え方は、人それぞれ異なります。「生きるとは何か」「幸せな最期とは何か」を考えるきっかけになれば幸いです。

クリニックのブログでは、頭痛についての記事が多いですが、ときにはこうしたテーマについてもお話ししています。皆さんの健康や人生について考える一助となればと思います。