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本日は私の母を死にいたらした脳動瘤について

広島で脳神経を専門に開業しております院長の井上健です。

本日は私の母がもっていた脳動脈瘤についてです。

ほかにもネット上に掲載しておりますのでご参照いただけると助かります。

脳動脈瘤のみでは脳神経の圧迫による複視や頭痛、しびれ、麻痺などおこりますが死に至ることはまずありません。

最も怖いのは、動脈瘤が破れたときのくも膜下出血です。

くも膜下出血は発症してしまうと二人に一人は死に至ります。

命が助かっても重篤な後遺症を残します。

このような恐ろしい脳動脈瘤ですが、じつは健康な人の20人に一人くらいの割合で見つかるといわれてます。

つまり脳動脈瘤が見つかってもそれが死に至る可能性はまずないと考えてください。

では脳動脈瘤は見つかっても放置していいか?

それは違います。

破れる危険性のある脳動脈瘤とまず破れないと思われる動脈瘤があるのです。

専門医に経過観察を勧められた脳動脈瘤はまず心配ありません。

秋田脳研のデータ(2008)です。

脳動脈瘤の年間破裂率は0.85 %しかありません。

つまり秋田脳研で治療していない脳動脈瘤をもつ患者さんが100人いたとして、1年後までに破裂する患者さんは1人未満なのです。

UCAS Japanのデータ

UCAS Japanという別の日本全体で脳動脈瘤の破裂率を調べてものがありますが、それも約1 %となっています。

ISUIA のデータ

欧米からのデータ(ISUIA)では、部位や大きさにより5年間で0-50 %の破裂率が示されています。

欧米では7mm未満の大きさで、破裂しにくい部位に限ると5年間の破裂は0%だったというデータがあります。

でも99%大丈夫でも、30年生きると?

そうです。

現在から一年後まで生きると1%の確率で脳動脈瘤が破裂するならば、

30年間生きた場合には、30%の可能性で破れてしまうことになります。

破れる動脈瘤には、背景要因があります。

つまり以下に示すように小さな脳動脈瘤であり、形状も安定して、破裂しにくい部位にあり、家族歴や喫煙などのリスクのないかたはまず心配ないのです。

今から6年前の2012年

日本人のデータ(UCAS Japan:

日本全体で6000人以上からの調査、2012に発表)

全ての動脈瘤で0.95%

動脈瘤3-4mm(0.34%/年)

5-6mmでは1.13倍(0.50%/年)

7-9mmで3.35倍(1.69%/年)

10-24mmで9.09倍(4.37%/年)

25mm以上では76.26倍(33.40%/年)

とリスクが高くなることがわかりました。

脳動脈の形状でブレブという膨らんだ場所があるものでは1.63倍、動脈瘤の場所が後交通動脈分岐部で1.90倍、前交通動脈では2.02倍のリスクになります。

他従来の研究では、2親等以内の家族歴のある方、他の破裂動脈瘤(くも膜下出血を起こした動脈瘤)に合併したもの、脳底動脈に発生した動脈瘤、形が不整形のもの、高血圧・喫煙歴、多量の飲酒のある場合、は破れやすいといわれています。

脳動脈瘤の大きさに関していうと

10ミリ以上では10年間に55.9%(10ミリ未満では13.9%)と言う報告もあります。

疾患ははまったく異なりますが、癌と診断されるかたは年間86万人です。

そして癌で死亡されるかたは年間37万人です。

近年早期発見や新たな治療法の開発などで死亡率も減ってきている癌も多く存在していますが、高齢にともない癌の発症は増え続けています。

くも膜下出血は癌に比べてもはるかに死亡率が高い恐ろしいものですが、脳動脈瘤全般の死亡率は癌とは比較にならないほど低いのです。脳動脈瘤と診断されたかたの多くは病気と診断されたのではなく喫煙などと同様のくも膜下出血になりやすい体質を診断されたと考えるほうが良いという考え方もあります。
脳動脈瘤と診断されたかたの多くは、心配することのほうが精神的には負担になり問題だともいえます。

治療を薦められず、経過観察を勧められた方のなかには脳の健康を守るための年に一回の脳ドックを健康保険を使ってできる*のだと前向きに考える人もいらっしゃいます。

*健康で症状がないかたは健康保険を使用して頭部MRIは撮影できません。

健康なかたは脳ドックをお願いします。

まとめ

脳動脈瘤は恐ろしいくも膜下出血をきたします。

脳動脈瘤の罹患率は高いのです。

特に日本人にはよく起こります。

心配するべき脳動脈瘤は手術などで対応可能なものがほとんどです。

心配しないで良い脳動脈瘤は経過観察をしながら生活習慣の改善をしましょう。