私こと、長崎県長崎市生まれ、広島市中区舟入そだちの、クリニックの院長です。

もくじ

はじめに

最近、患者さんが病気の症状をインターネットで検索されて病院に受診されることが多くなりました。

ウィキペディアなどの情報源をはじめ、ただしい情報を簡単に得られるようになったからだと思います。

なかには、本日紹介するような珍しい病気を自分であてた患者さんもいらっしゃいます。

可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)という頭痛をきたす病気

ある日、雷がおちるような強烈な頭痛がはじまりました。

日に何度もその頭痛で悩まされました。

ご自分で症状について調べたようです。

その結果RCVSという一般のひとは聞いたことがない病気を疑って、大きな病院を受診されました。

病院では評判の脳神経内科医が診察され、頭部CTを撮影。

異常はなく、片頭痛と診断され、トリプタンというお薬を処方(後でこのお薬は禁忌薬と判明)。

トリプタンは全く効果なく、頭痛はおさまりません。

よく考えて、RCVSを知っていそうな個人の医院のホームページを調べました。

その医院では、CTでなく頭部のMRIを撮影されました。

脳の血管が攣縮してました(脳の血管が縮んでました)。

RCVSと診断され、お薬がだされました。

大病院でわからない病気が、個人の医院でわかりました。

Googleで可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)と検索するとその方のブログが表示されます。

この患者さんの症状やエピソードなどをよむとRCVSというのがどんな病気かわかります。

今回、わたしも医師としてRCVSという病気について書いてみようと思いました。

患者さんにとって有意義な情報となることを願います。

RCVS(アール・シー・ヴイ・エス)とは

可逆性脳血管攣縮症候群 (かぎゃくせいのうけっかんれんしゅくしょうこうぐん)のことです。

英語では、Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome といいます。

略語でRCVSといいます。

名前のとおり、

可逆性 もとどおりの状態になる

脳血管攣縮 脳の血管が縮むという意味です

症候群 そのような状態です。

雷鳴頭痛で発症するRCVS

多くのかたは雷鳴頭痛(らいめいずつう)で発症するといわれております。

雷鳴頭痛って未破裂動脈瘤にともなう雷鳴頭痛の症例報告から由来しております。

1986年のランセットという英国国際誌に投稿されたDayらの論文です。

未破裂動脈瘤にともなう頭痛の症例報告です。

Thunderclap Headache(雷鳴頭痛)なる頭痛病名が使われました。

ギリシャ神話で

ゼウス大神が雷霆(らいてい)を投げつけると雷の一撃を受けます。

そのような一撃を雷鳴頭痛と表現しました。

でも、このRCVSは約5%は雷鳴頭痛がなくはっしょうするとかいわれております。

わたしの経験でも、めまいのみで発症したRCVSの症例があります。

RCVSにおける雷鳴頭痛の頻度

雷鳴頭痛は数分間でピークになる頭痛です。

ピークについては議論ありますが、一次性雷鳴頭痛の場合は一分未満です。

一次性というのは、血管が攣縮するなどの画像などで原因が指摘できないものを一次性とよびます。

この一分未満にこだわるかが、診断の決め手になることもあります。

雷が頭のなかに落ちたような激痛です。

そのような頭痛が何度もおこるのです。

一般には、初回の雷鳴頭痛の発作から6.4日間のあいだに平均四回くらいおこります。

頭痛のみならばまだしも、脳出血やくも膜下出血、脳梗塞、PRESなども合併します。

PRES(プレス)とは

今日の話題は、医師のほとんどが知らない内容です。

脳神経内科医はほとんどが聞いたことがある内容です。

で、プレスについて

可逆性後頭葉白質脳症(かぎゃくせいこうとうようはくしつのうしょう)のことです。

英語では、PRES (posterior reversible encephalopathy syndrome)です。

英語の得意なかたは、訳の順番が少し違うのではと気づくかもしれません。

それは、昔はPRESと呼ばずRPLS (reversible posterior leukoencephalopathy syndrome)と呼ばれていたからです。

この時は(いまでもそう呼ぶ人がいますが)RPLS (アール・ピー・エル・エス)とよんでました。

臨床的にはけいれん,意識障害,視覚異常などをの症状をきたします。

画像上では、脳浮腫と思われる変化がおもに後頭部の大脳の白質というところを中心に出現します。

そして、これらの症状や画像所見は可逆性なのです。

可逆性のRCVSによって可逆性のPRESがおこることがあるということです。

*後で記載してますが、ここで可逆性とついたRCVSもPRESも可逆性でない不幸な転帰をきたすことがあります。

初回の雷鳴頭痛からの平均日数とその頻度です。

脳出血 2.2日(0-12%)

くも膜下出血 4.6日(0-30%)

脳梗塞 9.5日(6-8%)

PRES 4.0日(8-9%)です。

脳出血は、皮質下という大脳の表面から数ミリ奥にある部分におこることが多く大きさも小さいことが多いです。

くも膜下出血も、おなじように皮質下におこります。

典型的な症状など

20-50歳 女性に多い 男女比は1:2-3

突然の(数秒から数分の期間で始まる)強い頭痛で始まります。

期間 1-3週間

随伴症状 吐き気や嘔吐もあり

視覚異常や片麻痺、構音障害、失語、失調等の症状(攣縮した血管の支配領域による)。

痙攣や局所神経症状を呈することはまれながらあります。

症状は一過性のことが多いです。

しかし、可逆性という病名ですが、永続的な症状をのこすこともあります。

一過性脳虚血発作や脳梗塞は出血におくれて、翌週に出現することが多いようです。

一過性脳虚血発作の症状は、視覚障害、一側の知覚異常、失語症、片麻痺の順の頻度とされております。

まれに脳梗塞になってしまいますが頻度は7-50%と報告によってまちまちです。

画像診断技術の進歩でRCVSの診断率が高くなっており、実際は脳梗塞など合併されるかたはもっと少ないと思います。

しかし、まれに重症の脳梗塞になったり、死亡の報告もあるのがRCVSです。

再発は稀とされます。

この攣縮は、脳の血管に限局し、頚部頚動脈の攣縮はおこらないようです。

診断

頭部MRIの検査で診断していきます。

しかし、初回のMRI検査で血管の攣縮がみられないことが多く、RCVSをうたがった場合は二回、三回と検査をくりかえす

必要があります。

誘因

誘因がないことも多いです。

1血管収縮物質による薬剤性のもの
2入浴やシャワー

一昔まえまで、入浴関連頭痛として報告されておりました。

入浴関連頭痛とみられる頭痛の一部にRCVSがあるのかもしれません。

3性交

こちらも性行為にともなう一次性頭痛という疾患概念がありますがこれとは区別されます。

性行為にともなう一次性頭痛

性行為によって誘発される頭痛です。

ふつうは、性的興奮が高まるにつれて両側性の鈍痛として始まります。

オルガスム時に突然増強します。

この訴えで来院されたかたは、つい性行為にともなう一次性頭痛と診断しがちですが、ほかの症状などないかよく聞き

RCVSと鑑別をする必要がでてきます。

4排便やいきむなど

こちらも一次性咳嗽性頭痛(いちじせいがいそうせいずつう)と区別されます。

一次性咳嗽性頭痛

咳またはほかのヴァルサルバ手技(つまりいきみのことです)で誘発される頭痛です。

通常は突発性におこりますので雷鳴頭痛です。

持続時間は1秒から2時間といわれております。

頭痛専門医っていうのは、このように一つひとつ頭痛の持続時間やおこりかたを問診してききとり、区別していきます。

素因

RCVSをおこすひとの約40%のかたが、片頭痛もちだと言われております。

そのほかの要因は現在は不明です。

経過

通常は二カ月ですが、後で示すカルシウム拮抗薬などを内服することで劇的に頭痛が生じなくなることがあります。

治療

血管が攣縮して頭痛がくるので、その攣縮をおこさないようにするようなお薬が必要になってきます。

カルシウム拮抗薬です!

狭心症の発作を抑制するカルシウム拮抗薬です。

お薬の名前としてはベラパミルとか塩酸ロメリジンとかを使用します。

血管をひろげますので血圧が低いかたは、たちくらみや倦怠感などの副作用がおこることがあります。

まちがっても、片頭痛のときの特効薬であるトリプタン製剤(スマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ゾルミト

リプタン、ナラトリプタン)を使用しないことです。

ところが、この頭痛って頭痛のおこりかたをうまく伝えれないと片頭痛と間違えられるのです。

「先生、頭痛が急にやってきました。脈をうつようにズキンズキンします。数時間続きます。吐き気もあります。」

急性期によく使われるCTでの検査。

「CTでも異常はないので片頭痛だと思います。片頭痛の特効薬を飲んでみてください。」

てな具合です。

「先生、一分以内にピークになるような頭痛が突然おこりました。」と言われる患者さんは少ないです。

まさか頭痛のピークがいつかで頭痛が診断されるとはふつうの人は考えませんね。

おわりに

RCVSなど、めずらしくて、かつ難しい病気を紹介しました。

雷鳴頭痛はくも膜下出血などの命にかかわることのある頭痛です。

おそらく雷鳴頭痛で二次性のものの頻度はこのRCVSがもっとも多いと思います。

すぐに医療機関に受診するのはもちろんのこと、RCVSを知っているような専門的医療機関に受診されることも大切です。