もくじ

【脳の段取り力が危ない】

スマホの使いすぎが「実行機能」に与える影響とは?

こんにちは。
いのうえ内科脳神経クリニック院長、脳神経内科専門医の井上です。

「何をするかはわかっているのに、うまく行動に移せない」
「やろうと思っても、気づけば違うことをしている」
「段取りを考えるのが面倒になった」

このような状態は、医学的に「実行機能の障害(executive dysfunction)」と呼ばれることがあります。

最近、この実行機能の障害が、スマートフォンの過剰な使用によって起きる可能性が指摘されており、いわゆる「スマホ認知症」とも関係していると考えられています。

今回は、この“脳の段取り力”とも言える「実行機能」が、スマホによってどのように影響を受けるのかを解説します。


■ 実行機能とは何か?

実行機能(executive function)とは、以下のような高次の脳の働きを指します:

  • 計画を立てる

  • 優先順位をつける

  • 注意を持続させる

  • 適切に切り替える

  • 衝動を抑える

  • マルチタスクを整理する

これらをまとめて「段取り力」「自己制御力」などと呼ぶこともあります。
主に前頭前野(前頭葉の前方)がその中枢です。


■ なぜスマホで実行機能が障害されるのか?

📱 1. 注意の分断(アテンションスプリット)

スマホは短くて強い情報刺激(通知音、SNSの更新、動画の切り替え)を次々に与えます。
その結果、脳が1つのことに集中できなくなるのです。

→ 結果として「考えて行動する力(思考−行動連携)」が低下します。


📱 2. 即時快楽(ドーパミン過剰)による自制心の低下

SNSや動画視聴は、脳の報酬系(ドーパミン系)を刺激します。
これにより、「努力せずすぐに報われる刺激」ばかりを求めるようになり、計画的行動や持続的作業が困難になります。

→ 実行機能の中でも「抑制」「先延ばし防止」「継続性」が特に損なわれます。


📱 3. 脳のワーキングメモリへの負荷

スマホを見ていると、脳は常に処理すべき情報で埋まっています
この状態が続くと、「目の前の行動計画」や「手順記憶」がうまく整理されなくなります。

→「何をしようとしていたか忘れる」「途中で違うことを始める」といった行動が増えます。


■ 日常に現れる“行為実行障害”の例

症状 説明
行動の脱線 「掃除をしようと立ち上がったのに、スマホ通知を見て忘れた」
優先順位の混乱 「明日締め切りの書類より、SNSチェックを優先」
段取りの低下 「家を出る準備に時間がかかる、忘れ物が多い」
衝動性の増加 「今やらなくていいことに飛びついてしまう」

これらは軽度であっても、生活の質(QOL)や仕事効率に大きな影響を与えます


■ 子ども・若年層での影響も深刻

近年では、小学生や中高生の「注意力の低下」「学習の集中力低下」にスマホの使用が関係しているという報告が相次いでいます。
発達途上の前頭前野が刺激過剰になり、自己制御力の成熟が妨げられる可能性があります。


■ 対策:脳の段取り力を守るために

対策 解説
使用時間を制限する 1日合計2時間以内を目安に(特に就寝前)
通知を減らす アプリの通知をOFFにし、集中時間を確保
デジタルデトックス時間を設ける 毎日30分でもスマホを見ない時間を
紙の手帳やToDoリストを活用 視覚的に段取りを整理する習慣づけ

■ まとめ

スマートフォンは便利なツールである一方で、前頭前野の“司令塔”機能に知らず知らずのうちにダメージを与える可能性があります。
行動を計画し、実行に移すという「人間らしい脳の働き」は、日々の使い方で守ることができます。

「最近、段取りが悪くなった気がする」
「やるべきことが頭に入ってこない」

そんなときは、スマホとの付き合い方を少し見直してみてはいかがでしょうか。

当院では、認知機能や実行機能に関するご相談も受け付けております。お気軽にお尋ねください。