もくじ

本日は舌痛症(ぜっつうしょう)について。

「先生、専門外の話はしないでください。」
という、声が聞こえます。

実は、舌痛症は脳神経内科の医師もみる病気なのです。

実際の臨牀では、患者さんが歯医者さんやペインクリニックに受診されます。
脳神経内科の先生は患者さんをみる機会が少ないのです。

私どもも、最近になって歯医者さんから舌痛症で紹介されることが多くなり、舌痛症の患者さんを多くみるようになりました。

昨年のこと、ご高齢の女性が当院に舌痛症疑いで歯科医の先生から紹介されて受診。

このかたは舌痛症ではなかったのですが、左の口腔内から上あごにかけての痛みでした。

過去に、上顎洞癌を患っていて、某総合病院の耳鼻科で診られていました。

最初の印象は、舌痛症の関連疾患でした。

上顎洞のMRI撮影をしました。

上顎洞癌が再発しているではありませんか。

すぐに総合病院の、主治医の先生のところに紹介状を書きました。

無事、再手術になったとのことです。

脳神経内科は舌痛症の症状も診て鑑別診断をしたり、治療することもあります。

舌痛症とは、

口腔内灼熱症候群(こうくうないしゃくねつしょうこうぐん)のなかで、舌に限局しているのを舌痛症といいます。

口腔内灼熱症候群とは、口腔内が焼けたような感覚あるいは異常な感覚になる状態が三か月以上つづくのです。

この症状は一日のなかで二時間以上出現すれば、痛みがない時期があっても診断されます。

これは、英語ではバーニングマウス症候群といいます。

あっ!これなら聞いたことあるといわれるかた、いらっしゃるかもしれません。

歯科の先生でも、舌痛症と口腔灼熱症候群は違うといわれる方がいらっしゃるようです。

部位が舌に限局しているだけで舌痛症は口腔灼熱症候群のことなのですね。

口腔灼熱症候群は50から70歳代の女性に多いのです。

罹患率は、日本人の0.7から3%とのことですので聞きなれない名前のわりには、多くのかたが悩まれていることがわかります。

閉経後の女性に限っていうと、12から18%という報告もあり。

女性が多く、なんと男性の約8倍から10倍。

片頭痛も女性が多く、男性の約4倍から5倍でしたね。

私は、この病気は脳のなかのセロトニンという神経伝達物質が減るためにおこると考えててるんです。

片頭痛やうつ病や線維筋痛症(せんいきんつうしょう)などと同様の状態がおこります。

治療としてこのセロトニンを多くするようなお薬、つまり抗うつ薬などが有効といわれております。

「じゃあ、口腔灼熱症候群はうつ病の症状ですか?」

これは、違います。

抑うつ症状がなくても、口腔灼熱症候群を発症されるかたはいます。

片頭痛の患者さんの3割位に抑うつ状態の合併があるというデータがありますが、7割の方は抑うつ状態ではないのです。

片頭痛の患者さんにアミトリプチリンという抗うつ薬を投与してみたデータがあります。
やはり、うつ症状を持ってないかたにも頭痛の予防になることが発表されております。

同じく、口腔灼熱症候群のかたで抑うつ症状がないかたにも抗うつ薬は有効なのです。

ご高齢のかたは、唾液の量がへっているのか、舌が痛いとか舌や唇や口のなかがぴりぴりするという違和感が治らないと訴えるかたが多くいらっしゃいます。

口腔灼熱症候群は、口腔の粘膜を調べても異常なし、感覚の検査でも正常です。

頭部MRIや血液検査などでも異常は認められません。

いま、この口腔灼熱症候群については研究者のなかでの関心が高まっています。

口腔灼熱症候群についての研究論文の数です。

1988年から1990年の13年間ではわずか81論文のみでした。

ところが1991年から2000年の10年間で、154論文。

2001年から2010年の10年間で、384論文。

2011年から2017年の7年間で、412論文。

と急増しております。

この疾患の診断基準は現在、国際頭痛分類第3版β板に記載されております。

このことからも、舌痛症は頭痛を専門とした医者もみるべき疾患なのです。

診断基準です。

A. BおよびCを満たす口腔痛がある。
B. 3ヵ月を超えて、1日2時間を超える連日繰り返す症状。
C. 痛みは以下の特徴を有する
1)灼熱感  2)口腔粘膜の表層に感じる
D. 口腔粘膜は外見上正常であり、感覚検査を含めた臨床的診察は正常である。
E. 他に最適な国際頭痛分類第3版の診断がない。

国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)
国際頭痛学会が定める分類・診断基準。第3版は2013年に国際頭痛学会学会誌に掲載され、2014年に日本語訳が出版されました。ベータ版となっているのは、国際頭痛学会がこの分類に基づいた実地診療を見極め、将来的さらに修正を加えて正式な第3版を発表する礎になるという位置付のためです。

以下、鑑別疾患です。

全身疾患

  1. 糖尿病

  2. シェーグレン症候群(口が乾燥する病気です)

  3. 貧血 鉄欠乏性貧血と悪性貧血というビタミンB12や葉酸の欠乏による貧血があります。

  4. 微量元素欠乏症 とくに亜鉛欠乏です。

  5. 舌痛症の患者さんでプロマックという亜鉛含有のお薬がだされることがあります。

  6. 脳血管障害、脱髄性疾患、ギランバレー症候群などの神経疾患。

  7. 口腔乾燥や神経炎など、口腔痛を来たすお薬の服用

局所的な問題

  1. 不潔な口腔環境

  2. 悪習癖

私自身がこれを経験していました。

舌を歯に押し当てる癖です。

歯医者さんとの会話で止める決心がつきました。

きっかけが大切です。

唇をかむかたもいらっしゃいます。

  1. 不良な補綴物 とくに、さきがとがっているもの。歯医者さんにお願いしましょう。

  2. 口呼吸ならびに唾液分泌の障害、口腔乾燥症

  3. 舌神経・下歯槽神経障害の既往(歯科の治療後や帯状疱疹後神経痛)

  4. 放射線治療後

  5. 歯科材料アレルギー

  6. 扁平苔癬

  7. 口腔カンジダ症

  8. 単純ヘルペスや帯状疱疹などのウイルス感染症

治療について

前述のように、抗うつ薬が効果あります。
口腔内灼熱症候群はセロトニン減少だと書きました。
日々の生活習慣をあらためることが重要だと思います。
口腔がいたくなるというのは、大きな病気の警告サインと考えたほうがよい。
頭痛やめまいや耳鳴りなどと同様に、生活習慣に改善すべき点がないか探してみてはいかがなものか?
もちろん、器質的原因ある場合もあるので、医療機関受診はお忘れなく。