いのうえ内科脳神経クリニックの井上です。

本日は梅雨の合間の晴れの日でした。

ありがたいことにコロナ患者さんは広島にはひとりもいなくなりました。

しかし第二波に対して油断大敵。

いまで自粛してきましたが解禁。

豊島までサイクリングにいきました。

豊島は私が県病院で診てた患者さんの出身地。

まさか偶然会えるかななんて思いながら。

本日は

もくじ

認知症患者さんへの対応について

とくにアルツハイマー病のように記銘力障害が最初にきて、その後にBPSD(行動症状・心理症状)をきたす認知症。

記銘力障害は中核症状ですが、中核症状で介護するかたを困らせることより

BPSDで介護者を困らすことが実はほとんどなんです。

中核症状

脳の神経細胞が障害されることによって直接おこる症状。

・記憶障害 直前におきたことも忘れるなど

・判断力の障害 筋道をたてた思考ができなくなる判断力の障害

・問題解決能力の障害 予想外のことに対処できなくなる問題解決能力の障害

・実行機能障害 計画的にものごとを実行できなくなる

・見当識障害 いつ・どこかわからなくなる

・失行 ボタンをはめられないなど

・失認 道具の使い方がわからなくなる

・失語 ものの名前を言えなくなる

BPSD

認知症の行動と心理症状ですが、英語ではBehavioral and Psychological Symptoms of Dementiaと。

その頭文字をとってBPSD。

暴言・暴力・抑うつ・興奮・不眠・昼夜逆転など体調の悪いときは誰でも経験するようなものが病的に出現。

幻覚・妄想など統合失調症に出現するようなもの。

徘徊・ものとられ妄想・弄便、失禁などまで

これらの出現は

その人の置かれてる環境や人間関係、性格などがからみあって出現するのです。

だからひとそれぞれで症状が異なるのです。

同じアルツハイマー病でもBPSDがほとんど現れないひとがいる一方で、かなり激しくBPSDがでてしまうこともあります。

介護者が苦慮する症状の多くは、中核症状よりもBPSDといっても過言ではないかも。

*ある種のアルツハイマー病や脳血管障害性認知症、レビー小体病、パーキンソン病認知症、前頭側頭型認知症、嗜銀顆粒性(しぎんかりゅうせい)認知症、大脳皮質基底核変性症などでは

神経細胞のつよい障害により直接的にBPSDが発症するため後天的要素による影響が少ないといわれてます。

BPSDの背景に、本人なりの理由がある。

行動の背景にある「なぜ」を考えて、本人の気持ちに寄り添った対応を。

そして三か条です!

認知症患者さんとは

言い争わない・間違いを正さない・理屈をいわないです。

これは実は、認知症でなくても夫婦円満、家庭円満をめざすなら心がけないといけないことかもしれませんね。

言い争わない

認知症患者さん:「財布がなくなったけど、○○さん知らない?どっかに隠したんでしょう?」

そのお嫁さん:「そんなバカなことお母さんいうの辞めて。お母さんが間違えてどこかにおいたんでしょ。この前も同じことあったでしょ。」

このお嫁さんの返答だと、言い争いがはじまるのは明らか。

「失礼しました。私が探しますね。」といって探し始めましょう。

そして、この後が大切。

「ところでカープの試合を見た?逆転勝ちしたのよ。」

お母様はカープの大ファン。

広島カープに話題を転換するのがポイント!

そうでないと永遠にみつからない財布を探すことにも。。。

間違いを正さない

ある80歳のお父さんは20年前に会社を退職。

それなのにある朝。

認知症のお父さん:「いまから仕事に行ってくるから。」

その長男さん:「おやじ!20年前に仕事退職したんでしょ。仕事に行くなんてありえないよ。」

こう返答してしまうと、「おまえ何を馬鹿なこと言ってるだ。俺に嘘をついて仕事に行かせないのか。」と。。。

「そうだね。お仕事に行くんだね。」とまず相手の発言を肯定。

そして、この後が大切。

「ところで、昨日のカープの試合見た?鈴木誠也がホームラン三打席連続で打ったんだよ。」

「まじか?昨日は寝てて観てなかったな。」

「今日夜録画のいい場面を観ようよ。」

「おまえ録画してくれてたのか。」

そんな話をしているときに、何気にお母さんが

「あなたーお食事ですよ。朝の散歩にも行きましょうね。」

と、仕事に行こうとしていたことはもう忘れてしまってます。

理屈をいわない

認知症の奥さん:「私のエメラルドの指輪が盗まれた。」

実は、以前奥さんはご自分のエメラルドの指輪を長女さんにプレゼントしてました。

ここは迷うとこですが、

その夫:「○○よ!△△に指輪をプレゼントしただろ。盗まれたような状態にはたんすも引き出しもなってないし誰も家に入った形跡ないだろ。」

といってもよさそうですが、奥さんの頭のなかでは盗まれてますのでこの返答はダメ。

大切な宝石なんで大嘘つきましょう。

「警察に連絡しておいたよ。犯人は見つかったみたい。ダイヤはきっと戻ってくるよ。」

嘘も方便。

この嘘はここまで記憶障害がきてるのであれば覚えることはできないでしょう。

嘘をうまく利用するのは正しいことです。

しかし

必要以上の嘘をつくのはさみしいことで、後悔するかも。

やはり話題転換でカープに頼りましょうか。。。

バリデーション

米国のソーシャルワーカーNaomi Feilさんにより提唱されたコミュニケーションの具体的な方法。

バリデーションを推奨。

バリデーションとは直訳すると確認するとか批准(ひじゅん)するとかの意味。

認知症患者さんが感じている世界や現実を否定せずに寄り添うことを原則。

患者さんが混乱した行動の裏には必ずなんらかの理由がある。

アルツハイマー病や類似疾患では

「認知の混乱」

「日時・季節の混乱」

「繰り返し動作」

「植物状態」

という四段階の変化があり。

各段階でケアーの関わりかたが変わってきます。

その関わりかたについてバリテーションを中心にNaomi Feilさんはのべております。

ユマニチュード

横文字が続きます。

ユマニチュード(Humanitude)とは、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づいたケア技法。

フランス語で「人間らしさ」を意味する「ユマニチュード」には、「人間らしさを取り戻す」ということも含まれています。

フランスで体育学を専攻していたYves GinesteとRosette Narescittiにより開発。

「見る・話す・触れる・立つ」ことの援助を四つの柱としています。

介護者の患者さんに対する姿勢

介護者は以下のことに注意してくださいと「米国精神医学会(APA)」は提唱

1 患者さんの能力低下を理解、過度に患者さんにたいして期待しない。

認知症患者さんは能力低下があります。記憶力が低下してもそれを受け止めましょう。

2 急速な進行とあらたな症状の出現に注意

飲んだおくすりや感染症のことも、すぐにかかりつけ医に相談を

3 簡潔な指示や要求を心がける

お願いごとは間歇に!複雑になると理解に苦しみます!

4 患者さんが混乱したり怒りだしたりする場合は要求を変更

得意な話題転換もありですね。

5 失敗につながるような難しい作業をさける

上手くできない感は脳にとってつらいもの。

6 障害に向かい合うようなことを強いない

7 おだやかで、安定した、指示的な態度をこころがける

患者さんの気持ちを考えながら対応ですね。

8 不必要な変化をさける

9 できる限りくわしく説明(論争にならないように)、患者さんの見当識がたもたれるようなヒントを。

米国神経内科専門医試験から

米国神経内科専門医試験の問題です。

このブログを読んだみなさんは正解できると思います。

質問 認知症患者さんの問題行動を改善するために、つぎのうちで推奨できないものはどれか。

1 患者さんが間違えるたびに、やさしく訂正する。

2 日常的に決まっている日課の変化をさける。

3 テレビや映画を観てるのをさまたげない。

4 疲労をさける。

答 1