高度のアルツハイマー病のお父さん

「お父さんは、風邪をひいて家で休ませてます。お薬だけいただきたいのですが?」

と娘さん(50歳くらい)が受診されました。

当院では、認知症の患者さんがこのような理由で受診できずに、ご家族が代わりに受診されたときにはお薬のみを処方することはなく、ご家族からお話を聞いたり相談にのるようにしております。

「お父さんの介護は、子育てをしたときと同じことみたいです。」と、話をしてくれました。

この娘さんには二人のお子さんがいます。もう成人されて立派になられております。

「オムツを変えたり、食事をスプーンで与えたり、お風呂につれていって介助したり。。。。」

「私があかんぼうのときに、両親からしていただいたことを、今お父さんにありがとうと思いながらしています!」と笑っておしゃってました。

私の診察室では、よくある会話の一コマですが、娘さんの前向きな、ご両親に対する感謝の気持ちを聞き、少し涙ぐみました。

この娘さんは入院、介護施設入所も考えられていたこともあったようですが現在はお父様のケアーにやりがいを感じられているようでした。

父(私の父)は81歳で、天寿(てんじゅ)を全うしました。

胃癌によって最期の一カ月弱のみ寝たきり状態になりましたので(最期の二カ月までなんと診察をしてました)、私は介護と在宅医と勤務医と開業医の二足以上のわらじを履いて生活してました。

在宅医は私が継承する7月1日から在宅専門医にゆだねました。

父の介護はたったの一カ月間でした。

父が亡くなる一カ月位前のとき、偶然みつけた、井上内科胃腸科医院の処置室の引き出しの奥に入っていた次の詩を読んで涙しました。

(父は昭和45年にこの舟入の地で開業された医師でした。私は父は名医だったと思っております。)

父は、この詩が好きだったようで仕事場にもちこんでスタッフにも話をしてたと後から耳にしました。

スタッフの教育に利用したというより、この詩が本当に好きだったようです。

その根拠は?ありませんが、私が知っている父らしいところです。

手紙 ~親愛なる子供たちへ~

【作詞】不詳【訳詞】角 智織【日本語補詞】樋口 了一【作曲】樋口 了一

年老いた私が ある日 今までの私と 違っていたとしても
どうかそのままの 私のことを 理解して欲しい
私が服の上に 食べ物をこぼしても 靴ひもを結び忘れても
あなたに色んなことを 教えたように 見守って欲しい

あなたと話す時 同じ話を何度も何度も 繰り返しても
その結末を どうかさえぎらずに うなずいて欲しい
あなたにせかまれて 繰り返し読んだ絵本の あたたかな結末は
いつも同じでも 私の心を 平和にしてくれた

悲しいことではないんだ 消えて去って行くように 見える私の心へと
励ましの まなざしを 向けてほしい

楽しいひと時に 私が思わず下着を濡らしてしまったり
お風呂に入るのを いやがることきには 思い出して欲しい
あなたを追い回し 何度も着替えさせたり 様々な理由をつけて
いやがるあなたと お風呂に入った 懐かしい日のことを

悲しいことではないんだ 旅立ちの前の準備をしている私に
祝福の祈りを捧げて欲しい

いずれ歯も弱り 飲み込むことさえ 出来なくなるかも知れない
足も衰えて 立ち上がる事すら 出来なくなったなら
あなたが か弱い足で 立ち上がろうと 私に助けを求めたように
よろめく私に どうかあなたの 手を握らせて欲しい

私の姿を見て 悲しんだり 自分が無力だと 思わないで欲しい
あなたを抱きしめる力が ないのを知るのは つらい事だけど
私を理解して支えてくれる心だけを 持っていて欲しい

きっとそれだけで それだけで 私には勇気が わいてくるのです
あなたの人生の始まりに 私がしっかりと 付き添ったように
私の人生の終わりに 少しだけ付き添って欲しい

あなたが生まれてくれたことで 私が受けた多くの喜びと
あなたに対する変らぬ愛を 持って笑顔で答えたい

私の子供たちへ
愛する子供たちへ

増えている認知症

アルツハイマー病は、高齢者での有病率が上昇し、治療費も増加しています。

現行の治療薬もさることながら、新たな治療薬が期待されております。

現行のアルツハイマー病のお薬

ドネペジル、リバスチグミン(同イクセロン、リバスタッチ)またはガランタミン(同レミニール)とう脳内のアセチルコリンという、記憶に関する神経伝達物質を増やすお薬と、塩酸メマンチンという、神経毒性をもつといわれるグルタミン受容体に関連した現在アルツハイマー病の治療薬として認可されております。

軽~中等度アルツハイマー病に新薬idalopirdineは無効/JAMA

新たな治療薬として期待されておりましたが、idalopirdineというお薬は残念ながら効果がないことが先日JAMAという有名な論文に発表されました。

idalopirdineという選択的セロトニン5-HT6受容体拮抗薬は?

脳内のセロトニンが減ると片頭痛発作がふえたり、抑うつ状態になったり、認知機能にも関連があるといわれてます。

セロトニンという神経伝達物質で受容体という受け皿を刺激して作用します。

セロトニンの受容体は現在11個ほどわかっておりますが、その一つの5HT6受容体をブロックするのがidalopirdineです。

セロトニンを介したアルツハイマー病のお薬は現在開発されていません。

【参考文献】Atri A, Frölich L, Ballard C, Tariot PN, Molinuevo JL, Boneva N, Windfeld K, Raket LL, Cummings JL. Effect of Idalopirdine as Adjunct to Cholinesterase Inhibitors on Change in Cognition in Patients With Alzheimer Disease: Three Randomized Clinical Trials. JAMA. 2018;319:130-142.

認知症の症状

物忘れなどの中核症状と、幻覚や不安、抑うつ状態、妄想などといった周辺症状があります。

今回の、セロトニン受容体拮抗薬は周辺症状には効果はどうなのかまだ期待は残ってます。

周辺症状をおこさないためには薬物療法のみでなく介護の力にもかなり関係してくると思います。

「想像を絶する大変な介護を続けているあなたには頭があがりません。あなたは本当に親孝行をされております。」