わたしは、広島で脳神経を中心に内科疾患を診療しております。

ブログには新たな情報を常に紹介できるように日々情報収集につとめております。

本日は、鉄欠乏状態についての話題です!

もくじ

鉄は赤血球をつくるために必要な微量元素(びりょうげんそ)

鉄といえば鉄欠乏性貧血がすぐに頭にうかぶと思います。

鉄分を多くとらないと、貧血になるんだと。

そうです、鉄は赤血球をつくるために必要な微量元素なのです。

鉄欠乏は頭痛の原因になります。

診察では必ず、眼瞼結膜(がんけんけつまく)を見ます。

ここの色がうすくて白っぽいかたはまず貧血です。

当院は頭痛専門外来がありますので、多くの片頭痛の患者さんをみます。

そのなかでも、貧血が原因の頭痛であったり、貧血が誘発した片頭痛などの頭痛であったりします。

その場合は、貧血の原因の9割以上が鉄欠乏性貧血です。

多くの鉄欠乏のかたは女性です

多くのかたは女性で、生理(月経)のときに鉄を失うことによります(図でも*で15-50mgの排出が月経時におこると注釈を入れております)。

あるデータによると日本人女性で月経がある方の二人に1人が潜在性鉄欠乏であるといわれております。

体内におけおける鉄の代謝

 

いろいろな神経疾患の原因でもあります

むずむず足症候群

寝る前になったら、足がむずむずして眠れない、足を動かしたり、寝床からでるとそのむずむずする感覚はなくなるのに、といった症状のかたはむずむず足症候群という病気です。

医学用語では下肢静止時不能症候群といいます。

この病気の原因は頭の中のど真ん中に扇形に広がる基底核という部分における、ドーパミンという神経伝達物質の受容体(じゅようたい)の障害と同部位の鉄欠乏が言われております。

(鉄はドーパミンを脳内で産生するのに必要な補酵素です)

脳内の鉄はどうやら赤血球における鉄欠乏より早くおこるようで、貧血がないかたにも鉄欠乏状態になってむずむず足症候群になります。

この病気は鉄の補充でよくなったり、少量のドーパミン作動薬(抗パーキンソン病薬)をつかうと軽快します。

うつ病

鉄欠乏では、疲労、焦燥感、無関心、集中力低下などのうつ病に似ている症状がおこります。

鉄の欠乏は、うつ病と関連が深い神経伝達物質のドーパミンの機能を障害させるといわれております。

妊娠中は胎児に栄養分を多く供給しないといけません。

そして出産時には出血します。

そのため産後には鉄が不足する女性が多くなります。

これが産後うつ病のリスク因子になるといわれております。

*スペインの729人の妊婦を対象とした調査

産後32週までに65人がうつ病を発症。

出産48時間後の血中フェリチン値と産後うつ病の発症には強い関連がありました。

フェリンチン(貯蔵鉄と考えてください)が低いかたはうつ病の発症が3.7倍も高かったようです。

【参考文献】

Albacar G et al. An association between plasma ferritin concentrations measured 48 h after delivery and postpartum depression. J Affect Disord. 2011;131:136-42.

過ぎたるは及ばざるが如し

上記の図は鉄が体内でどのようにして吸収されて、蓄えられて、排出されるかという代謝経路です。

食事からは20-30mgの鉄を摂取しないといけない理由は、そのおよそ十分の一以下しか体には吸収されないからです。

我々が処方する鉄剤はだいたい50mg-100mgくらいを一日量でだすことがおおいのです。

でも、その鉄剤って胃にものすごくこたえます。ひどい時は、吐いてしまうこともあります。

そのような場合は、鉄剤を静脈から注射で投与します。

鉄剤を静脈から投与する場合、フェジンというお薬は40mgも鉄が入ってます。

十二指腸や空腸上部から吸収する必要もないので、静脈投与の場合は週に一回とか月に一回とかでも十分です。

ただし、毎日鉄は、たったの1mgくらいしか排出されないので鉄欠乏でない人が過剰にとると余分な鉄が体のあちこちに沈着します。

それは、皮膚ヘモジデローシス、肝ヘモジデローシスといって沈着する臓器の名前にヘモジデローシスという言葉をつけて表現します。

ヘモジデローシス

ヘモジデローシスとはヘモジデリンという変性したフェリチンに脂質、多糖類、タンパク、銅、カルシウムなどが結合したものが沈着する状態で、臓器の損傷はともないません。

しかし、鉄がさらに臓器に沈着すると、臓器損傷をともないます。そのような状態をヘモクロマトーシスと呼びます。

肝臓では肝ヘモクロマトーシスといい肝硬変の一つの原因にもなります。

ヘモクロマトーシスになるには全身鉄量が5gつまり5000mgを超えた場合といわれております。

 

ヘモジデローシス⇨ヘモクロマトーシス

 

*鉄の過剰は癌・認知症などの様々な病気の原因になります。

重要な言葉、フェリチン 患者さんも知っておこう

フェリチンという言葉がでましたが、フェリチンは、図でいうと肝臓や脾臓というところで貯蔵鉄というところに関係します。

フェリチンは24個のタンパク質から成る球状タンパク質複合体であり、鉄と結合されて貯蔵されるのです。

ですから、フェリチンが十分ある鉄欠乏性貧血は存在しません。

逆にフェリチンが十分あるのに貧血というのは別の原因があります。

また、貧血はないのにフェリチンは低く、貯蔵鉄は少ないということはよくおこります。

フェリチンが低いと貧血になる一歩手前と考えていいでしょう。

また、前述しましたむずむず足症候群などは貧血なくとも、フェリチンが低くてもおこりますのである一定量のフェリチンの値を保つように鉄を摂取されるのが理想的です。

フェリチンはng/mlという単位で血液のなかにも存在しており、鉄欠乏性貧血の場合は5ng/ml以下になります。

むずむず足症候群などの治療では100ng/ml位を目標にして治療しますので、100ng/ml位が健康を維持するのに適切な量だと思います。

貧血がはっきりされる方は、一般のお医者さんのところでもすぐに治療されますが、貧血はないのに鉄が欠乏するような状態は実はむずむず足症候群のみでなく妊娠抑うつ状態など他にも多くあるといわれておりますので治療が必要です。

逆に、鉄欠乏性貧血の方などで鉄剤で治療されているかたは、鉄の過剰にならないように定期的にフェリチンを見る必要があります。

性別と年齢ごとの血中フェリチン濃度の正常範囲

成人男性18-270 ng/mL      成人女性18-160 ng/mL

子供 (6カ月から15 才)7-140 ng/mL 幼児 (1-5カ月)50-200 ng/mL

新生児(28日以内)25-200 ng/mL

鉄欠乏の補充

食物中に含まれる鉄の体への吸収率は比較的低いのです。

食事によっても吸収のされかたが違います。

動物性食品(赤みのお肉、レバー、貝など)に含まれている「ヘム鉄」は比較的吸収されやすいようです(吸収率 約25%)。

一方、鉄は多く含まれてますが、植物性食品(海藻、青菜、大豆など)に含まれている「非ヘム鉄」は吸収されにくいのです(吸収率 1~7%)。

またビタミンCは鉄の吸収をよくしますので一緒にとるとよいといわれてます。

鉄欠乏性貧血で癌に!

鉄は体内では二価鉄(F2+)と三価鉄(Fe3+)の状態で存在。

Fe2+が電子を放出してFe3+に酸化する反応によって我々の体のなかでDNA(ディーエヌエー)がつくられます。

だがら

鉄が欠乏するとDNAがうまく作れなくなり

粘膜の損傷が生じます

つまり

口内炎・口角炎

なんと

下咽頭輪状後部癌にもなると(通常の咽頭癌は男性が女性の5倍ともいわれてますが、この部位の癌は女性の方が多い)

鉄が不足すると貧血だけではないのですね。