こんにちは。

いのうえ内科脳神経クリニックの井上です。

先々週に起きました台風21号、および北海道を震源とする大地震において被害にあわれたかたにお見舞いを申し上げます。

皆さまが、一刻も早く日常を取り戻すことができるよう、心からお祈り申し上げます。

もくじ

パーキンソン病に有効なリハビリは?

本日はパーキンソン病に有効なリハビリということでエビデンス(証拠となる研究がある)に基づいて書いてみます。

パーキンソン病とは?

パーキンソン病は、中脳の黒質という部分の変性によりドパミンという物質が欠乏する疾患です。

ドパミンは運動の制御に重要な物質なので、それらが欠乏すると運動が障害され、スムーズな運動ができなくなってしまいます。

その結果、パーキンソン病の症状として著名な安静時振戦や歩行障害といった症状が現れます。

パーキンソン病は高齢者だけでなく、40歳代の方から80歳代の方まで、幅広い年齢層で好発する疾患でもあります。

パーキンソン病のリハビリテーションは何故重要なのか?

パーキンソン病は指定難病であり、根治療法が見つかっていません。

しかし

主体となる症状の進行を抑えることは可能です。

それを支えているのが薬物療法とリハビリテーションです。

一見薬物療法の方がはるかに重要と思われるかもしれませんが、実際は。

これまで数々の研究でパーキンソン病へのリハビリテーションの有効性が示されてきてます。

リハビリは治療を行う上で無視できないものとなっています。

今回の記事では具体的にどのような運動がパーキンソン病に有効なのか紹介していきたいと思います。

ボクシングの訓練はパーキンソン病に有効?

アメリカのインディアナポリス大学で行われた研究で、ボクシングのトレーニングがパーキンソン病患者に影響を与えるかどうかテストしたものがあります。

患者さんは90分間のトレーニング(パンチ練習、ストレッチ、筋トレを含む)を週2、3回、36週行い、0週、12週、24週、36週の段階で身体機能などの測定を受けました。

すると12週の段階でバランス能力、歩行能力、日常生活の活動性、QOL(キューオーエル 生活の質)が改善し、さらに24週、36週でそれらがさらに向上していることが判明。

トレーニングが直接病因に働きかけているかどうかはこの研究では定かでありませんが、パーキンソン病患者にとって転倒は大きな問題になってくるので、少なくとも転倒の予防策としては有効だと思われます。

「えー、ボクシング?」と思われたかた。

安心してください。

ボクシングといっても相手を殴らないシャドーボクシングやミットを叩くだけのものもあります。

ちまたでは特に若い女性にはやりのスポーツがボクシングです!

ボクシングに興味のある方、身近にボクシング環境がある方などは試されてみるのもいいかもしれません。

なお、このトレーニングは軽症であるほど効果が高かったと報告されています。

なるべく早期にリハビリテーションを始める重要性も伺えます。

ランニング、ストレッチ、筋トレでパーキンソン病を改善!

先程はボクシングがパーキンソン病に有効であったという研究を紹介させてもらいました。

ボクシングは数あるリハビリ方法の一つに過ぎずません。

もっと身近な方法で症状を和らげることもできます。

アメリカのメリーランド大学で行われた研究。

ランニングとストレッチ、筋トレを組み合わせました。

パーキンソン病患者の歩行速度、心血管機能、筋力、UPDRS(パーキンソン病の重症度を測るスケール)上の運動機能得点がそれぞれ改善。

ジムはもちろん家や病院でも実行が可能なので、パーキンソン病患者の方には積極的に取り入れていただけたらと思います。

誤嚥もリハビリで予防可能!

パーキンソン病の患者さんとって、転倒と並んで危険なのが誤嚥です。

パーキンソン病では嚥下力が低下するなどの理由で誤嚥のリスクが健康な人と比べ上がります。

誤嚥は転倒と同様に、死に直結しうるのでかなりの注意が必要です。

実は、パーキンソン病患者の誤嚥もリハビリテーションで予防できるという報告がされています。

台湾の長庚大学が提唱するリハビリテーション(Home-Based OLE program)。

唾を2回呑み込み、舌を突出させて巻きながら戻すという運動。

これを2回繰り返すという作業を繰り返す。

・25回繰り返すのを1セット 一日に2セットを週5日だけ!

単純で簡単にできるものです。

嚥下機能を改善することがきるという結果を得ています。

病状の進行具合で実行が難しい方もいらっしゃるかもしれませんが、これならば多くの方に有効な誤嚥予防策として導入できそうですね。

昔からやっている運動をする(エビデンスは残念ながらありません。私の臨床経験からです。)

パーキンソン病を発症するまえからやっていた運動。

私の患者さんでは卓球やテニス。

以前やっていた運動は不思議なことにできるんです。

歩くのも難しくなっても、卓球のラケットを握ると走れたりするんです。

過去の運動の記憶は大脳皮質に保存されているのです。

それらを積極的にいかしたリハビリも有効だと思います。

また以前ブログでも紹介しましたが「音楽をつかったリハビリ」

昔から大好きだった音楽をききながら体を動かすとびっくりするぐらい動けることがあります。

まとめ

いくつかのリハビリテーション方法を紹介いたしました。

どれも手段の一つです。

知っていただきたいのは、パーキンソン病に対するリハビリテーションが間違いなく有効だという点。

薬と比べるとあまり効果がなさそうだと思われるかも。

でも、たくさんの研究結果で効果が示されているので継続すれば何かしらの恩恵はあるはずです。

本日紹介した方法はどれも臨床研究で支持されているやり方なので、実践していただければ効果あると思います。

【参考文献】

1 Combs SA, Dieh MD, Staples WH, et al. Boxing training for patients with Parkinson disease: a case series. Phys Ther. 2011;91:132-142.
2 Shulman LM, Katzel LI, Ivery FM, et al. Randomized clinical trial of 3 types of physical exercise for patients with Parkinson’s disease. JAMA Neurol. 2013; 70(2):183-190.
3 Chin-Man W, Wann-Yun S, Chan-Shine H, et al. Home-Based Orolingual Exercise Improves the Coordination of Swallowing and Respiration of Swallowing and Respiration in Early Parkinson Disease: A Quasi-Experimental Before-and-After Exercise Program Study. Front. Neurol. 2018;9;624.
4 Travis M, Alvaro R, and Melanie R. A systematic Review and Meta-Analysis of Strength Training in Individuals With Multiple Sclerosis Or Parkinson Disease. Medicine. 2015;94;4.